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バシュッ_!


ルピは誰よりも速く行動し、その巨人の項を削いでいた。だらりと開いたその口からタクの体もダラリと垂れ、ルピはすぐにその場に駆け寄る。


「――ッカハ、ッ…!」


ドクリ、ドクリ。鼓動が上がる。信じられない光景がルピの目の前に広がっていた。


「っ、タク!!!」


ドクリ、ドクリ。信じたくなかった。ドクリ、ドクリ。だってそんな、まさか、訓練兵を三番手で卒業したあの優秀なタクが、


「タク…!!!」


ドクリ、ドクリ。タクはその声に答えてはくれない。ドクリ、ドクリ。身体中が熱くなる。


――ッ、


ドクリ、ドクリ。仲間が、目の前で。ドクリ、ドクリ。楽しそうに笑ってる、それに。

ドクリ、


――ドクリ




「きゃぁああああああ――!!」

「っ!」

「――ッルピ!!待て!!」


それはほぼ同時だった。悲鳴が聞こえた直後動いた一つの翼に、…リヴァイのその声は最早届かなかった。


「ッ、兵長!!上です――!!」


バシュッ_!!


「「!!」」


その声にリヴァイが振り返った時にはその首は既に削がれた後。誰がやったかなんて明白。この場でその尋常じゃないスピードを出せる人物なんて、自分とそれしかいない。


「ルピ!!」

「っ兵長…!」

「クソッ…お前らはアイツの手当てを急げ!」

「「はっ!!」」

「ケイジ!エルヴィンに伝えろ!」


――ここは奇行種の、巣窟だと


そうしてリヴァイは、空を舞い続けるその翼を追った。




 ===




――もっと早く、その異変に気付けていたら

――もっと早く、その危険を知らせることが出来ていたなら


…こんなことには、ならなかった。


「――ッ、」


目の前で仲間を喰われた衝撃からの憤懣はルピの全ての力を引き出させるのに十分なモメントと化した。ただただルピはその音のする方、兵の叫び声が上がる方へ飛び渡り、それを見つけては瞬時に殺していく。


バシュッ_!!


顔にベタリと張り付くその赤も熱気を帯びたその空気も気に留めずに。我をも忘れて、ルピはその怒りをそれに向け続けていた。




「――あの馬鹿が…!!」


ルピがリヴァイの命を聞かなかったのは、これが初めてだった。

そうしてリヴァイがそれに追いついた時には辺りに蒸気が立ち込めていて、それが彼女が殺した巨人の数を物語る。リヴァイはゾクリと背筋が湧くのを感じた。


「…っ!」


それはリヴァイの目にも捉えられないくらいの速さで動いていて、巨人を諸共せず簡単にその項を削いでいた。空を飛ぶその様はまさに鷹のごとく優美で華麗で、染まる赤が嫌というほど美しく散り、雨に溶けていく。

自分にも引けを取らないくらいの力。彼女がそれを秘めていたなんて信じられない事実だが、


「……完全にキレてやがる、」


ルピは今完全に我を忘れてしまっている状態なのが明白だった。その眼には何も映ってない、怒りで周りが見えていない。その力の源は激昂した感情だけだ。
…だからそう、それは最悪な状況で。いつガスが切れても刃が足りなくなってもおかしくはない。彼女がそれに気付いているとは到底リヴァイには思えなかった。




「――っ、」


そして刹那、ルピはハッと我に返っていた。プスリと間抜けな音を出したファンに、そうして今し方自分が置かれている状況に。

切りかかった勢いのまま空中で体勢を立て直す事は不可能だった。そうして自分に気付いた巨人がニタリと張り付いた笑みを向けてこちらに手を伸ばす。

――避けれない、


バシュッ_!


「っ!」


一つの影が自分の目の前を横切って刹那、その最後の巨人の項から真っ赤なそれが飛び散って、


「…ガス切れだ、馬鹿野郎――」


ルピの体はリヴァイに抱えられ、そのまま宙へフワリと浮いた。



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