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ズシン、ズシン…


「――エルヴィンさん、」

「?どうした」


そうして荷を下ろし始めて、十数分後。その状況は一変した。


「…このままだと巨人たちに囲まれてしまうかもしれません」


この場へ続く全ての道をそれが塞いでいる。暫く疎らに聞こえていた筈の音がいつの間にか一定の速度で大きく響くようになっていて、それらは同じ方向―ここを目指していた。急に何故、なんてそんなの愚問。巨人の行動が想定内にある事の方が珍しい。


「南には今のところ一体しかいないので…早急に荷馬車班とそちらへ進んで下さい」

「そうか。分かった」

「あと…これは提案なんですが、」


残りの方向から来る巨人は放って置いてもいいだろうが、それはきっとそのまま自分達の後を追ってきてそうして後々誰かが討伐する事になるには変わりない。だったらその方向と数が分かる自分が先にそれを殺しておいた方が、効率が良いのではないか。ルピはそうエルヴィンに話した。

エルヴィンはその提案に難色を示す代わりに、ナナバともう一人兵を付ける事を条件にそれを承諾した。下手に兵を数名残していくよりは確実性の高いルピとその護衛役二人ほどで十分事足りるだろうと判断しての事だ。


「無茶はするなよ、ルピ。その場の判断はナナバの指示に従え」

「はい」

「全てを終えたら早急に合流すること」

「了解です」


そうしてルピとナナバともう一人の兵チェスは、その場から姿を消した。


「…いやぁ〜ルピも立派になったねぇ、エルヴィン」

「ハンジ」


その残像を追うようにその方へ目を向けながらそう言うハンジに、エルヴィンも同じ気持ちになっていた。状況判断を素早く的確に下し、加えてルピは積極的に発言するようになったとも思う。
そうしてエルヴィンは荷馬車班と共に南方へ下って行った。彼女の巨人に屈しないその志の強さにも改めて感心させられながら、きっと彼女は事を全て成し遂げてくるとどこからか湧いてくる確証と共に。


 ===


「――この先に二体、そのすぐ右に二体、…少し離れて二十メートルほど左に一体いますね。進行方向が少し変わってきてます」


ルピ達がまず向かったのは一番音の数が多かった、荷馬車班のいた場所から東にそれた場所だった。


「一気に四体潰す事になりそうだね。…まぁ、三人いればさほど問題はないだろう」


こうしてナナバと壁外で行動をするのはこれが初めてだったが、昔から自分の面倒を見てくれていた彼女と一緒なら安心だった。班長を務めるほどに彼女も相当な実力を持っているのも知っている。
チェスという男性は二年ほど先輩にあたるが、彼もそれなりに壁外で活躍しているとナナバから聞かされた。…その時彼はものすごく照れたような顔をしていたが。


「――きましたね」


そうして数秒も経たないうちにそれらはルピ達の前に現れた。十メートル級と四メートル級がそれぞれ二体ずつ、ゆっくりと、着実に距離を縮めてくる。


「…少し散ろうか。固まっていると殺りにくい」

「「了解です」」


そうして左方向にナナバ、中央にチェス、右方向にルピは移動し、互いに一定の距離を取った。それに合わせるように巨人たちも方向を変えて動いていく。上手いことそれも散らばってくれてナナバとチェスに一体ずつ、ルピの方には十メートル級と四メートル級が二体迫っていた。

自分の方に二体が迫ってくる事にルピは全く動じなかった。先に歩いてくる四メートル級に焦点を絞り、アンカーを近くの柱に刺し己の身体をグッとそれに近づける。手を伸ばしてくるそれをヒラリとかわして、いとも簡単に後ろに回り急所めがけて刃を突き付けた、


パキンッ_


「っ!」


その時だった。生肉を切り落とすエグい音と同時に響いた甲高い金属音。綺麗に削いだそれと同時に落ちて行くは、
右の柄にあった筈の刃だった。

たった一撃で壊れたそれにその時は力を入れすぎたかなんて、悠長に替えの刃を付けようとその残骸を柄から抜こうとしたが、


「っ――!?」


何故かそれは抜けない。いつもなら簡単に取れ、替えるのにそう時間などかからないのに。

想定外の事態にルピは酷く動揺したが、すぐ傍に巨人が迫っていること思って咄嗟にワイヤを別方向に飛ばし一旦体勢を整える。
…何故、どうして。必死にそれを抜こうと試みるが、一向にそれは抜けそうにない。何故、ありえない。今までこんな事無かった。それが抜けなくなるという事態も聞いたことがない。中途半端に折れたのがいけなかったのか。だとしても、こんな、


「――ルピ!?どうした!!」


そうして様子のおかしい自分に気付いたチェスがこちらに加勢しようと向かってくるのを視界に捉える。とりあえずは彼に任せておくのが適当かと、そうして動揺していた心がやっと我に返って、…そうしてルピはまたと気づいた。


ズシンズシンズシン_


――この場に迫ってくる、もう一つの奇怪な足音に



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