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遠征を終えた後も、兵団内は慌しさが続いていた。それもいつも通りといえばいつも通りでもある。戦死者の弔い、怪我人の介抱。それでも、いつに比べてもその数は少なかったようにリヴァイは思う。


「――ルピ、」


ただ、少し様子が違ったのがルピだった。あの街で久々(といっても数時間)に顔を合わせた時にもそんな様子は無かったのに、壁内に戻ってきてからずっと塞ぎこんでいる。それを見せまいと本人はせかせかと働いているが、リヴァイにはお見通しだった。


「…お前また、自分を責めてるんじゃねぇだろうな」


リヴァイはそれをエルヴィンから聞いていた。ルピとナナバ、そしてチェスが荷馬車護衛として巨人討伐をしていた事を。
しかし彼女らが戻ってきた時にチェスの姿は無かった。彼は亡くなったと、ポツリと言ったのはルピ。その時の声が落ちていた事もその時彼女が抱いていた感情も全て分かっているつもりだが、


「……ウォルカさんに、言われたんです。チェスが死んだのは、私の所為だと」

「っ、…なんだと」

「分かってます、十分。…それが私の所為だって事。武器の不備のせいじゃ無いって事」

「ルピ、」

「でも、大丈夫です。…気にしてないです」


馬鹿言え、全面に顔に出ているだろう、なんて。思ったがリヴァイは口にはしなかった。


「……今回は"暴走"しなかったようだな。上出来だ」

「、はい」

「言わせたい奴には言わせておけ。お前はそれ以上に成果を上げているんだ」

「……、あの、リヴァイさん」

「なんだ」

「……どうしてウォルカさんは、私を、」


ポンと一つルピの頭に手を置いてそうしてガシガシと撫ぜる為に、その言葉の続きは発せられなかった。…いや、リヴァイがその言葉の続きを発させるのを阻止したと言っても過言ではなない。

「今日はゆっくり休め」と言い残しそそくさとその場を去るリヴァイ。やはり彼は彼女の事になると口を閉じるだなんて、ルピはその背を見つめながらそう思う事しか出来なかった。




 ===




「――ルピにいろいろ吹き込んでくれたらしいな」


リヴァイはそのままある部屋を目指し歩いていた。いつになく足音が響くなんて、それが自身の怒りを表しているとも気付かずに。


「はっきり言って迷惑だ」

「……私は本当の事を言ったまでよ」


ウォルカはそう言って、そうしていつもの笑みを自分に向ける。
…その笑顔はあの頃から嫌いだった。思い通りに事が進むと確信しているようで、いちいち己の癪に触れてくる。


「――ルピのブレードに細工したのはお前か?」


それはまだ技巧科で調べられている最中であって真実は定かではないが、それを聞いた時リヴァイは一番にそれを考えていた。
ただ、その場では言わなかった。あの場にはウォルカの"それ"を知らない者も数人いたから。


「何の話?」


恍けたような顔をしてそう言うウォルカ。彼女の演技力の良さは兵団内でダントツである事もリヴァイは知っていて、そうして歪む己の顔を満足気に見るその目も態度も何もかもが気に食わない、…筈なのに。


「…貴様、狙いはなんだ」


やたらとルピに付き纏いそれを称賛したり突き落としたりと、彼女が"何"をしたいのかがリヴァイには分からなくなっていた。昔のそれとはやり方がかなり異なる。どこか陰険で執拗な気がして、そして昔以上に自分の勘に障って。


「狙い?そんなの無いわ。…私はただあなたの隣にいたいだけ」


サラリと、しかしどこか熱っぽく。


「ねぇリヴァイ、私…あの頃の関係に戻りたいの」

「…クズが。ふざけるな」

「…あの子の事、大切なんでしょう?」


ウォルカもそれは十分理解していた。人類の希望。彼女は調査兵団に無くてはならない存在で、だからリヴァイが"お目付け役"となっている事も。


「心配しないで。あの子をどうにかする気はないわ」


それとリヴァイが"それだけの関係"であることもこの二ヶ月で分かってきた事で、ウォルカはようやく気付いていた。…それに悋気を抱く必要など、微塵もないと。

しかし、それがいつでもリヴァイの隣にいてその存在を一人占めしている事には変わりは無い。ウォルカはただ、それからリヴァイを取り返したいだけなのだ。あの頃のように。…その隣を、その存在を。


「…抱いて、」


――そう、あの頃の、ように


「――ッ」


ウォルカの腕が、リヴァイの首に回された。



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