「っルピ!!聞いたよ!!」
「…、?」
「"獣"に変身したんだって!?」
ハンジはそれを目撃していないうちの一人だが、それを聞いてものすごくテンションがあがっていた唯一の人物でもある。ルピがそれであるかもしれないという事実にリヴァイやエルヴィンでさえ驚いたのにも関わらず、彼女はそれを通り越して歓喜の声を上げていたからやはり調査兵団一の変人であるだなんて、…しかしそれが今回ばかりは逆に良い反応に思えてしまったのだから世も末であるとリヴァイは思う。
「すごい力を持ってたんだねルピ!!身体検査した時には何にも出てこなかったのに!!」
「…あの、」
ルピが起きたらまた身体検査していいかないろいろ聞いていいかなと五分置きに聞いてくるもんだからリヴァイは勢いでそれを承諾してしまっていたが、…やはりコイツは興奮すると見境がなくなるなんて、今更。
「でも何で今まで隠してたのさ!!水臭いじゃないか!!!」
「え、いや…」
「何っ?まさかサプライズ!?この私を最大級に滾ら――っぐぇ!!」
「おいハンジやっぱりお前黙っとけ」
滾りすぎだ。そう言ってリヴァイがハンジを蹴飛ばす。…滾ってる。ハンジがこの上なく滾ってる。ルピはこの時ようやく滾るという意味を理解した。
「ごめんルピ…取り乱しちゃったね」
「あ、いえ…」
「そういや身体起こして大丈夫なの?…全治四ヶ月じゃなかったっけ?」
ねぇリヴァイ?そう言ってハンジが振り返った先のリヴァイはしれっとした顔で「あぁそうだ」と返す。
腕、足、肋骨、その殆どの骨が砕かれていて一部は内臓にまで達していたもんだからその身体を動かすにも最低二ヶ月はかかるだろうと医者から言われていたのに、たった十日でルピはすんなりとその身体を起こしているという事実にリヴァイは最初驚ろかされていたが、しかしその時それについて触れなかったのにはそれなりにワケがある。…何故なら、もしかしたらそれも、
「それもルピの力なの?」
「……それは…分かりま、」
「っすごい!!すごいよ!!ねぇルピ今ここで変身――っぶっ!!」
「黙ってろって言ってんだろーがこのクソメガネ」
またもやリヴァイに蹴飛ばされるハンジ。…このままだとハンジが全治四ヶ月になってしまうかもしれない。どうしたらハンジの滾りは失せるのだろう、いや、もう手遅れか。
「…あの、……それはどんな姿だったか、分かりますか?」
ルピが質問をすればハンジは何故知らないのかという顔をしていたが、リヴァイが代わりにそれを説明してくれたお陰でようやく彼女もその事情を飲み込んでくれた。
"その姿"が何であるのか呼び起こされた夢の断片にも具体的なものは何も無い。だからそれを視覚で捉えられれば何か思い出せるかもしれないと思ったからで、その質問の仕方に特に意味は無かったのだが、
「目撃した兵達からの情報をモブリットが絵にしてくれたんだけど…あれ、さっきまで持ってたんだけどどっかに落としたかな?!…っ待ってて!とってくるから!!」
「――おい、ルピよ」
「、はい?」
「…何か思い当たる節でもあるんじゃねぇのか」
ハンジの姿が見えなくなって刹那、そう、リヴァイが一言。ハンジへの問いかけの仕方だけでそれを悟ったのか自分が何か訴えるようなオーラを発していたのかは定かではないが、…あぁ、この人は本当に鋭いなとルピは思う。
「……目覚めるまで、"夢のようなモノ"を見ていました。そこで……ファルクとルティルに、言われていたんです」
――"その姿"を、現してはいけないと
「…黙っていて、すいません」
「……、お前の"家族"は、お前がそれであることを知っていたということか?」
「……多分、ですけど、」
「――っお待たせ!」
そこへハンジが戻ってきた事でその話は自然に終わっていた。なかなか早かっただなんて、それはきっとハンジが滾ったままだったからに違いなくて。
「証言からモブリットが作成したものだけど、皆そんな感じだと合意してたね」
大きさは二メートルくらいって言ってたかな。そう言ってハンジが渡した一枚の紙。…それを見たルピの顔色が変わるのを二人は見逃さなかった。
「……ルピ?」
開けば顔よりも大きそうな口。その合間から見える肉をも引き裂くような尖った歯。よく音が拾えそうなピンと立った耳。よく走りそうなスラッとした筋肉質な両足。筆のように形のいい尻尾。そこらへんにいそうな犬とはまた違う、やはり得体の知れない獣…だったのだが。
「…何か、思い出したのか」
「いや、あの、……ファルク達に似てるなって、思って、」
「え?」「は?」
「…え?」
滾っていたハンジでさえも一瞬静止して、そうして同時に自分を見下ろしてくる二人。
「…お前、……今何て言った」
「…………え?」