a tale 7


***

遊び疲れたノノがそそくさと布団に潜り込んでしまったので、ローは仕方なく途中だったいつぞやの医学書に手を伸ばしていた。


「スー…スー…」


静かな空間に微かに響く小さな小さな命の音。きっと自分でなくても今のクルー達全員なら簡単にそれを奪えてしまうほどだろう。
そんなにもか弱く、儚い命の隣にいる不思議な感覚。医者としてか、人間としてか、父親擬きとしてか、はたまた一人の男としてかなんて。今のローには全くわからない感覚で。


「……、」


…けど、悪くない。今までに無かった新しい感情との出会いを、ローは素直に受け入れることが出来ていた。



医学書を読みだしてどれほどの時間が経ったかなんて数えてはいない。集中し出したら止まらない、外科医として当然の事だ。
…だから、隣にあったそれが何時の間にか腹の上に乗っかっていたなんて。


「なん、してる?」

「…!」


気づかなかった。

モゾモゾと布団から顔を出し医学書とローの視界の間に割って入ったノノは、満面の笑みでそう問うてきた。
…コイツ、どこでこんな必殺技覚えてきやがったんだ。とローが変なところに感心を抱いていると、彼女の興味は180度回転して医学書の方に向いているようで。


「なん?これ?」

「…お前にゃ読めねェよ」


言葉を少しずつ覚えてきたとはいえ、彼女にとってこれは小学生が古代文字を解読するくらい難しいだろう。

しかし、ローがそう言ってもノノがそれから目を話す事はなかった。読めないものほど面白いらしい。
時々写るグロテスクな写真に大袈裟に目を伏せたり、指をさしてこれは何だとわかりもしないくせに説明を強請るノノ。それでもローは、いやな顔せず一つ一つ説明してやった。とりあえず何でも頭に詰め込んでおけ作戦。…きっと明日ペンギンママにドヤされる事間違いなしだとしても。


「……で、これは――?」


しばらく医学部生向きな講義が開催されていたその寝室内に、またもや小さな吐息が聞こえてきた。それは、幾分か前に聞いたそれと一緒。乗っているそれを落とさぬようにチラリと顔を覗き込めば、満足そうな顔をして眠るノノがそこにはいて。


「…まったく、ワガママなお姫様だな、」


ワガママな女に振り回されるのは嫌いだった。主導権は全部自分にあるのだと、船長としての権威はプライベートでも外せなくて。
思い通りにならないモノなんて、いらない。自分に従順ならそれでいい。それはクルーでも、女でも、どちらにも同じ事が言えた。…のに。


「……ま、こんなのも悪くねェか――」


コイツに振り回されるのは、悪くない。その穏やかな寝顔に自身の心も穏やかになるのを感じた。
柔らかな銀髪を一つ撫で、医学書を握りしめていた両手をそっとノノの背中に回す。


「…おやすみ、ノノ」


そして、ローもゆっくりその瞳を閉じた。





少しずつ、染まる


(次の日)「ぺむぎん!!ダイチョウとショウチョウは胃のなかにあります!」

「……は?」



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