「ぱぱ!」
少女はそのパパとやら目掛けてオペ台から飛び出しベポに抱きつき、ベポはその勢いに押されその場に尻餅をつくハメになった。
その場にいた全員の目が点になり、パパと呼ばれた当の本人は困惑し切った顔をしている。
「ぱぱ!」
「…ぱ、パパじゃないぞ!」
嬉しそうに抱きついてくる少女に申し訳無さも感じたが、事実は事実だ。子供など作った覚えはない。ましてや自分は虎ではない。列記としたクマの類である。
ベポがそう言った直後、全力で頬ずりしていた少女はその行動をピタリとやめベポの匂いを嗅ぎ出した。まるで何かを確認するかのようなその行動。それは、よく犬がするものに似ていて。
「…ぱぱちがう!!」
「ぐぇっ!?」
…吟味した結果、違ったらしい。腹癒せにか少女はベポの体を全力で押しやった。なんだかんだでベポはこの短期間にてんやわんやである。
「ぱ、パパじゃなくてスイマセン…」
「お前…能力者か?」
そんな状況でもローはいつもの調子だった。ピク、とその声に反応した少女はその目をローへと向けるも、その口を開くどころか何を言っているのという感じで首を傾げる。
「? のー…?」
「能力者」
「? のーろく?」
…ちょっと待て。10歳前後ってこんな感じなのだろうかと違和感。子供となんて最近どころか何年も関わった事がない為、中には自分の幼い頃の記憶を呼び覚まそうとする者もいた。
「…きみは、トラになれるのかい?」
機転の効くペンギンは少し優しい口調で少女に話しかける。とりあえずこういう時は、スローテンポで話すのが一番だと思ったからだ。
「?」
「トラ」
「とら?」
「そう、トラ」
「??」
少女の首がどんどん傾いていく。…なんてこった。先ほど感じた違和感は的中してしまった。10歳前後にしては言葉が辿々しいと思ったのだ。いや、辿々しいというより話せないといった方が正しいのかもしれない。
「…お前、話せねェのか」
「ん?」
「船長、厄介なモノ拾いましたね」
「? やっか?」
「…まいったな」
能力者にしろそうでないにしろ、言葉が通じなければ会話も出来ないではないか。また新たな問題に直面するハメになってしまった。
「…っそうだ!」
シャチの何かを確信した声に皆が一斉に顔を向ける。彼は思ったのだ、もしかしたら、今まで虎だったから人間の言葉を知らないのかもしれないと。
「おいベポ。動物語で会話してみろ!」
「っ出来るか!!」
シャチの無茶ぶりにベポはすかさず反応した。つうか動物語ってなんだよ。なんとも馬鹿の考えそうなことである。
「んだよ話せねーのかよ!」
「…話せなくてスイマセン」
「打たれ弱いなお前っ!!」
ミニコントを繰り広げる二人の周りから少しずつその空間に騒々しさが広がり、そんな白い集団に怖気づいてしまったのか、少女は逃げるように部屋の隅っこに移動し、その身を縮こませてしまった。
「…あー、怖がっちまったじゃねェか」
きっと耳が付いていたらしゅんと垂れているような、そんな今にも泣き出しそうな顔をしだした少女に近づいたのは、…誰しもが予想だにしなかったこの船の長。
「ほら、大丈夫だ」
おいで。とまるで犬を呼ぶかのように同じ目線にまでしゃがんで、ローは少女を手招きしている。…船長の顔が優しい。声も優しい。あんな船長見たことないぞ。となんだか見てはいけないような光景に、クルー達は終始無言だった。
少女は最初は警戒していたものの、恐る恐るだがローの元へと近づいていく。それはまるで、何かのドキュメンタリー番組のようだった。
「よし、いい子だ」
すぐ近くまできた少女の頭をローはクシャクシャと撫でてやった。ポカンとした顔でそれを見ていた少女は、ローが微笑むのを見てようやく安心したように自身にも笑顔を作って見せた。
…なんだこの微笑ましい光景。なんだか船長が神々しい。
「…で?ホントにどうするんだ?」
ペンギンが目を向けた先のローはなにやら考え込んでいるようで、その視線の先にいる少女もローをしっかりと捉えている。…何故かローのその顔がニヤついているように見えるのは、果たして気のせいだろうか。
「名前は?」
「…なまえ?」
「そうだ。お前のナマエ」
「?」
「…ねェのか」
終始首を傾げ続ける少女は、最早ローの目には子犬にしか写っていないようで。
「…かわいいなお前」
「「!?」」
あなたのハートを鷲掴み。
「よし、ポチで決定」
「「…安易っ!!」」