a tale 8



「…なぁ、船長」


可愛い物体を目の前にしてすでにそれをポチと呼ぶローに恐る恐る声をかけたのは、ペンギンだった。


「パパ。…ってことは、かいぬ…親がいるんじゃないのか?」

「!」


薄々気づいてはいたが、拾って持ち帰って飼うとあれだけ豪語した以上自分がそれに触れるのはタブーだと思い、ローはあえて口にはしなかった。
そもそも自分たちは海賊である。欲しいと思ったものは何でも奪っていいのが海賊だ(どんな定義だ)。きっとペンギンもそれをわかっているからこそ、恐る恐る聞いてきたのかもしれない。


「……いや、もしはぐれてたのならこれからパパ、パパって煩いんじゃないかと思ったんだが?」


ローの怒りに触れたと思ったのかペンギンはそう付け加えてきた。確かにそれは一理ある。加えて泣き喚かれでもしたら手に負えない。女の涙ほど怖いものはないし(大袈裟)、女の涙はあまり好きではない方である。


「ポチ…お前、パパがいるのか?」

「…ぱぱ!」


瞬時にその言葉に反応するところを見ると、その疑問が確信へ変わるのも時間の問題だと思った。…あぁ、やっぱりか。とローの顔に少し影がかかり始める。

というより本気でポチと呼ぶつもりなのだろうかこの人は。とペンギンの思考は明後日の方向を向いていた。


「…パパはどこにいる?」

「……ぱぱ、いない…」

「「っ!?」」


ニコニコと明るい笑みを浮かべていた少女の顔が、ローのその一言で打って変わったように暗く影を落としてしまった。


「…いねェのか――」


その発言よりも、少しは言葉を理解し話せる事に皆は驚いていた。同時にローの口から安堵の溜息が漏れる。それはパパがいないことと、言葉を少々理解する事についてのどちらにも当てはまるような気がした。


「そうか…」


悲しげな表情を浮かべる少女にローは悪かったと言い、その頭を優しく撫でてやった。


「これからは俺たちがお前のパパだ」

「…は?」


突拍子もないローの発言に皆の目がまた点になった。…今日の船長はどこかおかしい。いやいつも普通ではないが、まるでヒト変わってしまったかのような行動の数々に、クルー達はただただ唖然とする事しかできなくて。


「、ぱぱ?」

「そう。全員お前のパパ」

「…おい、船長――」


そう言ってローがクルー達を指差す。少女がそれにつられて白い集団に目を向けた。

とりあえずクルー達は怖がらないようにと満面の笑みを浮かべてみる。男臭い笑顔しかしてこなかった彼らが久しぶりにレディ(子供だが)相手に向けたその笑顔が、若干気持ち悪い光景になったことをペンギンはあえてつっこまなかった。


「ぱぱ!!」


クルー達の満面の笑みに大分勝る笑みを返した少女は、その名を呼んでローに飛び付いた。一番のパパは船長で決定。幼くても多人数の中の権力者をよくわかっていらっしゃるようで。

とりあえず自分たちを受け入れてくれた事は確からしいので、ローは少女を片腕に抱き立ち上がるとクルー達に向き直った。


「新しいクルーの仲間入りだ!」

「「う、うおおおおぉぉ――!!」」





たくさんパパが出来ました。


「よしポチ、とりあえず服を着るか」

「…とりあえず名前変えませんか」




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