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あの無人島を出航して幾日かたったある日。
「島が見えたぞー――!!」
見張りの男が高々と声を上げ上陸の合図を知らせた。それを聞いたクルー達が嬉しそうにはしゃぎだす。
そんな皆を不思議そうに見上げていたノノの頭に、ローの手が乗っかった。
「?」
「島に着いたぞ」
「…しま?」
「あァ。面白いモンがたくさんあるところだ」
「! 行く!!」
ローの言葉に、好奇心旺盛な彼女の目がキラキラと輝いていったが。
「ちょっと待った、船長」
それを止めたのは、教育ママだった。
「…120%の確率でコイツは迷子になるぞ」
確実に。絶対に。そんなの目に見えるほど船長もわかっているだろうに。
「ノノにも外の世界を見せてやらなきゃダメだろ?」
なあノノ。とローが言えば、ノノはその首をはち切れんばかりに縦に振った。
…とりあえず迷子になる事は確定の上でそう言うんだな。とすでにはしゃぎまくっているノノに目を向けたペンギンは、視線を合わせるようにその前にしゃがんだ。
「いいかノノ。絶対俺たちの側を離れるなよ」
「はい!」
返事だけは威勢がいい。しかし絶対わかってない。…ペンギンママの苦悩は増える一方で。
「よし!首輪とリードを買いに行こう!」
「…それいいな」
「やめろ」
どんなプレイだよ。とペンギンがつっこむと、そんな風に考えるのかと船長とシャチに嫌味っぽく言われた。…くそ。コイツら。なんだか胃がキリキリするのをペンギンは感じた。
「ノノ、これ被っとけ」
そう言ってローが自身の帽子をノノに被せた。
何処かに行ってしまっても特徴的な白のツナギを着ているとなれば、自分達の一味だとすぐにわかるだろう。それにいつも自分が被っている帽子を被せておけば、特別なクルーである事を周りに知らせ威圧する事が出来る。…コイツに手を出せばどうなるか。船長である俺が黙っちゃいない、と。
「…とりあえず、目を離すなよ」
「……アイアイキャプテン!」
それが前提。上陸する予定のその島は穏やかな場所だから心配するに越した事はないが、船長がいつになく低い声で言うモンだからベポもシャチも無駄に気を張るハメになった。
「アイアイキャプテン!!」
ベポの真似してそう言うノノ。事の重大さを知らない一人呑気な彼女に、どうか何事もありませんようにとただただペンギンママは祈るのであった。
*
「――これ美味しそう!」
「んまそう!」
船長とペンギンは野暮用があるらしいので、シャチとベポとノノは別行動で街並みを巡っていた。
珍しさに目を輝かせるノノはベポの上でキョロキョロと顔を左右に動かすのに忙しそうだが、飛び出して何処かに行くという事もなく、ベポとシャチも少しづつ張り詰めた緊張から解きほぐされつつあった。
「ノノも果物好きなんだね」
「いや、コイツは肉だろ」
「これ、食べる!」
そう言ってノノが手にしたのは真っ赤なリンゴ。ベポも大好きな果物の一つである。
「ベポ、リンゴ仲間が出来たな」
「感無量です」
自分に似てきたのかと思ったら自然と頬が緩んだ。ベポは嬉しさのあまりリンゴを大量購入し始めた。
「…お前、買いすぎじゃね?」
「ノノと二人で食べるからいいの!」
ブツブツ物議をかます二人。
その傍で、ノノはまた新たな物体をロックオンしていた。
「…ニャア」
「?」
果物屋の隅っこにいた真っ黒なそれ。全身真っ黒の中で金色に輝くその瞳に、ノノは興味津々だった。
ベポとは全く異なる新たな生き物との遭遇。それは自分より幾分小さく、ノノの中に眠っていた何かがざわつき始めた。
「!」
そんなノノの心内を読んだのか、黒猫は果物屋の奥へと消えてしまった。
狙った獲物は逃がさない。野生のポリシーは今だ健在だったようで、目覚めた狩猟心に駆り立てられたノノは瞬時にそれを追ってしまった。
「にゃあ!」
「…!!」
ものすごい勢いで追ってくるノノに危機感を覚えた黒猫はその足を速める。
…あっという間に二人は、街の奥へと消えてしまった――
「――しまった!!」
気づいた時すでに遅し。呑気にリンゴ物議をかましている暇などなかった。ほんの一瞬、ほんの一瞬のうちにそれは消えた。目の端に映しておいたモコモコとツナギの白に安心しきってしまっていた。…まさかそんなスピードでいなくなるなんて、一体誰が予想していただろうか。
「…さすが野生界の王」
「関心してる場合かアホ!!」
案の定、案の定いなくなった。想定内の出来事に想定外な焦りをシャチは感じていた。
確かにいなくなる設定で船長もペンギンママもいたが、いなくなったらいなくなったで怒られるのは確実。確実に船長にバラされるだろう。…えらいこっちゃ。俺の命日は今日かもしれない。
「っ探すぞ!!」
「ア、アイアイ…!!」
だから首輪とリードをつけておくべきだったんだ。
シャチとベポは、速攻果物屋を後にした。
THE 迷子。
「匂いを追え!」
「んな無茶な!!」