a tale 5-2



「――…っ!?」


…あぁ、最悪だ。シャチは懸命に動かしていたその足をピタリと止め、木陰にすぐさま身を隠した。

聞こえてきたその声、感じたオーラ。すぐさま誰か検討がついた。こんな長閑で平和な島に、船長が一番敵対する輩―ユースタス・キッドがいるなんて思いもよらない。今日の自分は運が悪い。探し物もまだ見つかっていないにもかかわらずである。


「…引き返すか」


出来れば何事もなくスルーしたい。今は海賊を相手にしている暇はないのだと、そう思ってシャチが踵を返そうとした時。


「――クソガキ好い加減にしねえか!!」


キッドの怒号が辺りに響いた。海賊相手に誰かがケンカでも売ったのだろうか。有名になりつつある自分の船長と同じでキッドもかなり悪名高い奴であるにもかかわらず、そんな奴を相手にしようなんざ思うクソガキはどこのどいつだ…とそんな命知らずな馬鹿を一目見ようと振り返ったシャチの目に映ったのは、キッドの肩の上に楽しそうにまたがる小さな白い我が探し物だった。


――っお前かよ!!!!


シャチはガクリと肩を落とした。その背中のロゴマークも、その頭の特徴的な白い帽子も、全てがそれだと物語っている。
…あぁ、確かにアイツは命知らずで馬鹿なクソガキだった。よりによって何でアイツが、よりによってキッドといるのだろう。とんだ悪夢。今日の自分の運勢最悪に違いない。


「好い加減降りやがれ!!」


状況からみて、キッドがお怒りのご様子であることが容易に伝わってきた。無知な彼女をこれ程までに恐ろしいと思ったことはない。知らない相手―しかも見た目からして恐ろしいキッドの肩に乗るその勇気に逆に乾杯である。


「…くそ、――!?」


シャチが覚悟を決めその足を踏み出そうとしたその時。肩に乗っかったそれがシャチの足を止めさせ、同時にシャチの時間も止まった。


「船長――」


…あぁ、最悪だ。頼れる我が主が来たにもかかわらず、シャチの心はキッドの声を聞いた時と同じ気持ちだった。

まかしとけと言わんばりにローに向けられたその笑顔は逆に怖く、その後ろにいたペンギンに目を向ければ呆れたような苦笑いを送られ、そのまた後ろにいたベポはすでにその心を折られた様子。
…あぁ、俺の命日は今日で決定らしい。シャチは意気込むように一つ息を吐き出した。


「……キッド。保護者がきたぞ」

「あァっ?!」


キラーのその声に振り返ったキッドがその保護者の名を口にしようとしたが、頭の上のそれがキッドの声をかき消した。


「っとら!!!」


キーン。結構なボリュームなそれ、キッドの耳に大ダメージ。


「おまっ…!!」

「……、」


ローはそれを見つけ刹那、一戦を交える覚悟をしていた。
けれどもその上で楽しそうにはしゃぐノノとそれにたじたじな男―キッドのなんだか面白い光景に、すぐさまその戦意は消えてしまっていて、…残っているのは、多少のストレス。ノノがキッドに懐いてしまうのは気に食わない。それに何だかんだ楽しそうなキッドの野郎も気に食わない。


「とらっ!パイナポー!!」

「…パイナポー?」

「だから俺はパイナポーじゃねえ!」

「とらパイナポ食べる?」

「パイナポー……くくっ…」

「トラファルガーてめ殺すぞ」


きっとそれを勘違いしてノノが食べようとしていた事など、一目瞭然だった。…あぁ、本当にコイツは自分を飽きさせてくれない。ローは鼻で一つ笑うと、愛しい我が子の名を呼んだ。


「……ノノ、おいで」


その声にノノはすぐさま反応して自分の足元まで駆け寄ってきた。ローはその頭をよしよしと撫で、とりあえず無事な事を確認する。


「っ、」


急に軽くなった肩にキッドは少し物寂しさを感じた。…それはまるで、今まで戯れていた犬が飼い主に呼ばれて急に自分に素っ気無くなったような。


「…楽しかったか?ノノ」

「うむ!」

「ふっ…そろそろ帰るぞ。……ユースタス屋、迷惑かけたな」

「迷惑なんてもんじゃねえ。お前のペットはしつけがなってねえな」

「…俺のモットーは自由気ままな教育だ」


…それはそれで困るんですけど。ペンギンは心の中でつっこんだ。


「…パイナポ食べない?」


引き返そうとするローにノノが不思議そうにそう問う。
…いや、いつまでそれを食べ物と勘違いしているんだ。とそこにいた全員が心の中でお思っていた。


「…あァ、アレはダメだ」

「だめ?」

「中身が全然詰まってねェからな」

「…あんだとっ!?」

「…まーまーキッド――」


まったくクルーがクルーなら船長も船長である。キッドとて戦意は毛頭無かったが、事の元凶であるそれがそそくさと去っていくのが何だか気に食わない。
アイツ、覚えとけよ。ええと、名前はなんて言ったっけ。…と考えていると、その本人がクルッとキッドを振り返って、


「パイナポー!ばいばい!」


満面の笑みで手を振る彼女に、キッドは一瞬固まってしまった。


「…っ!」


…くそ。反則だ。散々あんな事しといてそんな事。
キッドはくしゃくしゃにされた自身の髪の毛を、自分でもクシャクシャに掻き毟った。





あなたのハートも鷲掴み


「…キッド、顔が赤いぞ?」

「っうるせえ」



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