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期末テストを控えここ数日毎日、爆豪は切島につきっきりで勉強を教えていた。そして今日も放課後その予定だった。
ファミレスに入ると、二人がいつも座る場所にミョウジが座っていた。この店は基本空いていて「お好きな席へどうぞ」と言われるので、なんとなく最初に座った席を気に入っていつもそこを使っていたのだ。
先客がいるなら別に他の席でいい、と爆豪は思ったのだが、切島が腕を引っ張って勝手にミョウジの横に座り、「一緒にやろーぜ!」とか言って勝手にドリンクバーを注文した。ミョウジもミョウジで特に文句を言うこともなく「べつにいいよ」とだけ言って平然と問題を解いていた。
「クソ髪てめー勝手なことすんな殺すぞ!」
「いーだろべつに、人数多い方が楽しいし」
「勉強すんのに楽しいもクソもねーよ死ね!!」
「落ち着けって。俺ドリンクとってくるわ、爆豪コーラでいいよな?」
「いいよな?」と言う割に切島は返事を聞かずにさっさとドリンクバーの方へむかった。
「ぜってー殺す」
爆豪はイライラして、激しく貧乏ゆすりした。なんでよりによってこいつなんだ。
爆豪はチラ、と目の前の女を見た。ミョウジはアイスティーを飲んでいた。ストローに口をつける瞬間がやけにスローモーションに見えて、爆豪は固まった。目が合いそうになって、合う前に目を逸らした。
──なんっなんだよ!!!!
「おい爆豪どうした?」
切島はメロンソーダとコーラをテーブルに置きながら、爆豪を不思議そうに見つめた。爆豪はテーブルに額を押し付けながら唸っていた。そしてガバッと顔を上げ、切島を睨みつける。
「死ね!!!!」
「えぇっコーラ持ってきたのに」
切島は爆豪にキレられるのはもう慣れっこなので、やれやれといった様子で鞄の中から教科書やらノートやらを出し始めた。
「切島、爆豪に勉強教えてもらってるんだっけ」
「おう! みっちりしごかれてるぜ!」
筆箱を握り締めガッツポーズする切島を見て、ミョウジはけらけらと笑った。笑ってんじゃねーよ、と爆豪は思った。
ミョウジが笑ってると無性にイライラする。でも切島に対するイライラと違う、これは果たしてどういう感情なのかよくわからなくて、それもまた爆豪をイライラさせた。
「爆豪すげー教え方うまいんだよ、スパルタだけど!」
「へー意外」
「意外ってなんだぶち殺すぞ!」
「あはは、ごめん。まぁ爆豪って成績良いもんね」
「そうなんだよ、凶暴だけど真面目なんだよ爆豪は!」
「てめーはいちいち余計な言葉挟まねぇと喋れねーのかクソが!!」
相変わらずミョウジはけらけら笑っている。爆豪はなるべくミョウジのことを見ないようにした。
三人はようやくお喋りをやめて、静かに勉強をはじめた。切島は練習問題を解きまくって、解けた問題から爆豪が添削していく。一度添削した問題を間違えた場合、爆豪の容赦ない罵倒と鉄拳が落ちる。とはいえ、切島は個性で防いでしまうのだが。
切島が問題に集中している間、爆豪は英単語を覚えながら暇を潰した。ふとミョウジを見ると、古文の問題集を解いているところだった。シャーペンの動きが止まって、消しゴムに持ち替えて書いていた答えを消して、目を細めて、問題を凝視し始めた。そしてまた答えを書き始めた。
爆豪はぼーっとしていた。まつ毛なげーな。指ほせー。なんで爪ピカピカなんだ?つーか肌白いなこいつ。耳ちいさ──
「なに?」
「は?」
ミョウジが不思議そうに爆豪を見ていた。それに気付かないくらい自分がぼーっとしていたことに気付いて、爆豪は動揺した。
──ていうか俺、なに考えてた?
「見てたでしょ」
「見てねーわ」
「見てたよ」
「解くのおせーなと思って馬鹿にしてただけだわ」
「ひど!」
古文苦手なんだよねとかなんとか言って、ミョウジは問題を解く作業に戻った。
爆豪は焦っているのを気取られないよう、必死に冷静さを保った。
──落ち着け、俺。
爆豪はソファに身を沈め、天井を仰いで深呼吸した。
ちなみに、爆豪は一人で座っていて、対面にミョウジと切島が並んで座っている。爆豪は思った。
──なんでミョウジの隣に座ってんだよクソ髪。いやべつに席順なんてどうでもいいわアホくさ。ていうかミョウジの隣に座りたいわけじゃねーし。そもそもなんでミョウジが出てくるんだよ、俺になんの関係もないわ。どうでもいいわ。なんで俺はこんなくだらねぇことばっか考えてるんだ……。
──全く、無駄な時間だ。
体勢を戻すと、物凄くニヤニヤしている切島と目があった。爆豪は腹が立ち、机の下で思いっきり蹴りを入れた。不意打ちだった為か硬化が間に合わなかった切島は言葉にならない声を発して悶えた。
「えっ切島どうしたの? 大丈夫?」
「だい、じょぶ…」
「クソ髪、真剣に勉強しねーなら帰るぞ」
「超真剣! 超真剣にやってるぜ俺は!」
帰られては困ると思ったのだろう、切島は練習問題の続きをやりはじめた。
それからしばらくの間、黙々とそれぞれ勉強を進めた。
少し目が疲れてきたなという頃、ミョウジが席を立った。
「私ドリンクバー行ってくる」
「あっじゃあメロンソーダおかわり!」
「うん、爆豪もコーラおかわりする?」
爆豪は喋る気にならず、コップをずいっと渡すだけで意思表示をした。ミョウジは三人分のコップを持って、スタスタとドリンクバーへ向かった。
「爆豪〜」
「ア"?」
「ミョウジ、なんか良い匂いする」
切島はテーブルに身を乗り出して、小さな声で言った。爆豪はピキリと固まった。くだらねぇこと言ってんじゃねーとブチギレたい反面、良い匂いってどんな匂いだろうと想像した。そして先程見た光景が脳内再生される……。長いまつ毛、白い肌、細い指、ピカピカな爪、小さい耳に髪の毛をかける仕草、そして爆豪を見る大きな瞳……。
爆豪は身体の内側からブワァッと熱がかけめぐるような感覚に陥った。
──イライラ、イライラ?これはなんだ。
ドドドドドッと凄まじい勢いで跳ねる心臓を鷲掴んで、爆豪はテーブルに勢いよく突っ伏した。
「お、おい爆豪、大丈夫か?」
「……死ねぇぇぇクソ髪ぃぃぃ」
低く唸るような声だった。爆豪は気づいてしまった。否、絶対に気づかないようにしていたことに気づいてしまった。
高校生活が始まってからというもの、つい気にしてしまう存在。気にすると心がかき乱されるから、なるべく距離を置いていた存在。知らない感情に気づいた時、これは怒りの感情だと思い込んでいた。その正体に今、気づいてしまった。
しかし爆豪はこの事実を認めたくなかった。爆豪にとって、ヒーローになる上で必要のないことは全て無駄なことだ。ましてや他人に興味を持つことなど一番の無駄である。
「おまたせ〜って、爆豪どうしたの?」
「あっいや、気にすんな。ちょっと休憩中」
「そっかあ」
そっかあじゃねーわ。てめーのせいだわ。ふざけんな。爆豪は散々悪態を吐きたかったが、心の中に留めた。
コト、と近くにコップが置かれる気配がした。シュワシュワシュワ……炭酸が弾ける音がする。
爆豪はまだ顔を上げられない。上げたくない。
「切島、どう? 順調?」
「この公式で躓いてる」
「どれー? 見せて、私国語飽きたから一緒に数学やる」
「まじか! そういえばミョウジって中間6位だよな!?教えてくれよ」
「爆豪みたいに上手く教えられるかわかんないけど、いいよ」
「頼むわ」
切島とミョウジの会話が聞こえる。
──てめーなんのつもりだクソ髪。ふざけんな。しゃべんな。お前ミョウジの匂い嗅いでんのかもしかして。きもちわりーな。嗅ぐんじゃねーよ。ふざけんなまじで。ぶっ殺すぞ。
爆豪はイライラがMAXだったが、身体中の力が抜けぐったりしていた。
自分がミョウジを好きだという事実に気づいたことが、あまりも衝撃的だったのだ。
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