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いつの間にか寝てしまったようで、爆豪は目を覚ますとバッと起き上がった。その反動でビクッと驚いた様子の切島と目が合う。
「おー、やっと起きたか」
「今何時だ!」
「19時過ぎ」
「チッ……1時間以上経ってんじゃねーか」
「ミョウジはついさっき帰った」
「……あっそ」
「もうこんな時間だしよ、飯食って帰ろーぜ」
爆豪はなにもかもどーでもいい気分になって、ドリンクバーにコーラを注ぎに行った。注いだそばから一気に飲み干して、また注いだ。乾いた喉にジュワァと炭酸が染みた。
「俺ミックスグリルとライス大。爆豪は?」
「同じのでいーわ」
母親に『飯食ってく』とメッセージを送り終えると、スマホをポケットに突っ込んだ。切島が店員に注文するのをぼーっと眺める。
「まだ眠いのか?」
「つーかお前、問題全部解き終わったんか」
「ああ、一応な! ミョウジが教えてくれてなんとか」
「あっそ」
そういえばそうだったな、と爆豪は寝る前のことを思い出す。
──俺が寝てる間、実質二人だけで勉強してたってわけか。ふーん、あっそ。
切島に思ってることを見透かされたくなくて、爆豪は首をぐるりと回して骨をポキポキ鳴らした。
「爆豪さ」
切島がスマホをいじりながら徐に話を切り出した。爆豪はなんだか嫌な予感がした。
「ミョウジのこと好きなんだろ?」
爆豪はどうやって切り返したら自分が不利にならないか考えた。
爆豪はなんでも思ったことをはっきり言うが、自分のパーソナルな部分は他人に見せないようにしている。そもそも、認めたくないが、こういう感情は弱味だ。絶対に答えたくない。
爆豪は返事をしない代わりに、切島をまっすぐ睨みつけた。
「睨むなよ」
「何考えてんだてめーは」
店員が食事を運んできて話は中断されたが、俺は切島から目を離さなかった。切島は「うまそー!」と言いながらさっそく肉にフォークとナイフを突き刺した。
「オイ」
「料理冷めるぞ」
「答えろ。何考えてやがる」
「べつに、そんなんじゃねえって。ただ確認しただけだ」
なんで確認したかって聞いてんだよ──しかし爆豪はその言葉を飲み込んだ。どんどん墓穴を掘っているような気がしたからだ。
切島はひとくち目を咀嚼し終えると、真剣な面持ちで話を続けた。
「俺はさ、爆豪のことまじですげー男だと思ってる。頭がいいのも戦闘能力がずば抜けて高いのも、才能だけじゃなくて努力もしてるからだって知ってる。ストイックだから、ヒーローになる為に必要か必要じゃないかで物事区別してるんだろ? わかるよ。でもさ、それだけで生きてたら寂しいぜ」
何言ってんだこいつ。爆豪は反論したい気持ちでいっぱいだった。寂しいとか、寂しくないとか、それで物事考える方が馬鹿げてる。けれど、切島があまりにも真剣な表情で話すので、黙って聞いてやろうと思った。
「お前、ミョウジへの気持ちを"無駄なこと"にカテゴライズしようとしてるんじゃないか?」
さすがに図星を突かれて、爆豪は少し居心地が悪くなった。
「正直、恋愛とかよくわかんねーよ俺も。でもさ、人を想う気持ちが無駄なことじゃないってのはわかる。むしろ、そういう気持ちってすげー大事だし、かっこいいと思うぜ」
切島は言い終えるといつもの明るい笑顔を浮かべた。爆豪は懸命に睨み続けている自分がアホらしく思えてきて、大きめに切った肉の塊をがぶっと一口で頬張った。
それからしばらく、食べ終えるまで二人は喋らなかった。
成長期真っ只中の高校生男児には足りない量だったが、夕飯を終えて満足した二人はなんとなくその場から動くのが面倒くさくなった。
切島はさっきの話の続きをするかしまいか逡巡しながら、ちらと爆豪を見やった。爆豪は頬杖をついてつまらなそうにストローを弄んでいた。
「あのさ…」
「あ?」
「まぁなんつーか、うまく言えねーんだけどさ。俺は嬉しいんだよ。友達だからさ」
「は? 意味わかんねえ」
「お前が“無駄なこと”に興味持ったのが、嬉しいんだ」
「さっきからごちゃごちゃと、俺のこと知ったように言いやがるなぁてめーは」
「わりぃ。でも、本気で言ってるんだぜ俺は」
──そんなことわかってる。
爆豪は切島の、底抜けに明るくて裏表がない性格を買っている。だから、厳重なパーソナルスペースに入ることを許している。この男は暑苦しいくらいアホで、いつだって本気だ。
爆豪は物凄く悔しいが、あまりにも図星をつかれたので何も言う気力が無かった。はぁぁぁと大きな溜息をついて、爆豪はソファに深く寄り掛かった。
「ミョウジのこと、好きだろ?」
「…………他言したらてめーの細胞一つ残らずクソ炭にすっならなァ」
「言わねーよ。男同士の約束だ」
爆豪は切島の良いように話が進んだような気がしてむかついたので、とりあえず思いっきり足を蹴っておいた。油断していた切島は硬化できず「いってぇ!」と叫び悶えた。
いい加減帰るか、と荷物をまとめて立ち上がり、会計に向かった。ミョウジの分は既に払われているらしい。会計を済ませて外に出ると、空はもう真っ暗で、夏とはいえ少し涼しい風が吹いていた。
「そういえば」
爆豪は気になっていたことがある。
「どんな匂いなんだよ」
「は?」
「お前言ってただろ、良い匂いがしたって」
切島は一瞬ぽかんとして、「ああ!」と掌を叩いた。
「なんか、石鹸みたいな。でもちょっと甘い感じの」
「ぶっ殺すぞ」
「わりぃわりぃ! 不可抗力だ。つーか聞かれたから答えただけだし」
「死ねや」
切島がミョウジの匂いを嗅いだ事実が、爆豪を無性に苛立たせた。
しかし、"ちょっと甘い感じの石鹸の匂い"について考え始めると怒りよりも言いようのない恥ずかしさの方が勝って、爆豪は考えるのをやめた。
爆豪はやっぱり、この想像しただけで心をかき乱される感覚が嫌いだと思った。
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