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10月16日、孤爪くんの誕生日。この日は早起きしていつもより念入りに身だしなみを整えて少しでも可愛いと思ってもらえるように気合を入れた。
気合を入れたのは身だしなみと気持ちだけで、プレゼントはというとちょっとだけ高いお菓子と猫のキーホルダーにした。
大好きな孤爪くんの誕生日だから何をしよう何をあげようとたくさん悩んだが、恋人でもない女から立派なお祝いをされても迷惑だろうと思いなるべく質素なものにしたのだ。
いつ渡すかはいくら悩んでも決められず、とりあえず朝教室に行ったがいなかったので諦めた。朝練に行っているんだろうと思ったが、部活に邪魔するのは気が引けた。
お昼にいつもの自販機を張っていたが今日は会えなかった。
結局孤爪くんに会えないまま放課後になってしまった。
会えないのは珍しくないが、今日はなんとしてでも会いたい。直接お誕生日おめでとうって言いたい。
教室に行くよりもバレー部に行った方が早いと思い、私は体育館に向かった。
体育館をのぞくと何人かいたが孤爪くんの姿は見えず、私は思わずため息を溢した。
「誰かに用?」
「きゃっ」
驚いて振り向くと、そこには孤爪くんの幼馴染の黒尾先輩がいた。
「あ、ナマエちゃんじゃん」
「黒尾先輩」
「なに、研磨に用?」
「はい」
「ふーん」
黒尾先輩はにやにやと私の持っている紙袋に視線を向けた。
鞄に入れるとプレゼントのラッピングが崩れちゃうから、紙袋に入れてきたのだ。
「なんですか、そんないやらしい目で見て」
「いやらしいって酷くない?」
そう言いながらも黒尾先輩はにやにやをやめない。
「あの、孤爪くんは……」
「もうすぐ来るんじゃない」
「あ」
タイミングよく、孤爪くんがこちらに向かってくるのが見えた。
「おーい研磨ー」
「ちょ、やめてください。自分で話しかけるので!」
孤爪くんは目立つのが嫌いとよく言っているので、こうやって遠くから名前を呼ばれるのも嫌なんじゃないかと心配する。でも、黒尾さんならいいんだろうけど。ほら、少し顔を顰めたけどそんなに怒ってる感じじゃない。ていうか孤爪くんって怒ることあるのかな、想像つかない。
孤爪くんと目が合った気がする。緊張してきた。やっぱり帰ろうかな。
「黒尾先輩、孤爪くん来たのでもう大丈夫ですよ」
「えーナマエちゃん冷たーい」
ギャルみたいな話し方をしてくねくねする黒尾先輩に冷ややかな視線を送る。
黒尾先輩は面白いし優しいけど、今は緊張していてかまっている余裕はないのだ、もし機嫌を損ねてしまったならあとで謝ろう。それよりも今は、孤爪くんに!!
近づくに連れて、私と黒尾先輩を交互に見て不思議そうに小首を傾げる孤爪くん。
──ああ可愛い。どうしてそんなに可愛いの孤爪くん!
「ミョウジさん何してるの?」
「あっ、こ、孤爪くん!」
──どうしよう、何言えばいいんだっけ。えっと、今日も素敵だね! ……じゃなくて、大好き! ……でもなくて、えっと……
「あの、お誕生日おめでとう」
──私今どんな顔してるんだろう。緊張で顔の感覚麻痺してるや、口角上がってたらいいんだけど。
孤爪くんの反応を見るのが怖くて目線を逸らしてしまう。間が怖くてずいっとプレゼントを差し出す。
「え、俺に?」
「うん、もちろん!」
「ありがとう」
孤爪くんがプレゼントを受け取ってくれた嬉しさで、思わず顔を上げた。
孤爪くんは少しはにかんでいる、ように見える。初めて見る表情に、ときめきが止まらない。きゅんきゅんきゅんきゅんきゅんって感じ。多分今私の周りには漫画みたいにハートマークがたくさん浮かんでは花火みたいに弾けていると思う。
なんだか運動部の部室の方から人がわらわら来る気配がして、私は正気を取り戻した。
「あ、ごめん忙しいのに。部活がんばってね!」
小さく手を振りながら「またね」と言ってから校舎の方に向かった。そういえば黒尾さんの存在を忘れていたと思って、一度振り向いて、黒尾さんに会釈してからまた孤爪くんに手を振って今度は少し早歩きでその場を去った。
孤爪くんはプレゼントを抱えていない方の手で小さく手を振り返してくれた。萌え袖で可愛かった。
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