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いつ雪が降ってもおかしくないような鋭い冷たさを感じる12月中旬。相変わらず私と孤爪くんの距離感は変わってない。でも孤爪くんはいつも優しいし、どんなにつまらない話も目を見て聞いてくれるからそれだけで嬉しかった。
もうすぐ冬休みだ。冬休みといえばまず初めにクリスマス、それから大晦日にお正月。どのイベントも本当は孤爪くんと一緒に過ごしたい。せめてメリクリとかあけおめとか一言交わしたい。でも相変わらず連絡先を交換してない私達には、そんなこと起こり得ないので悲しい。
きっと誰かに相談すれば、連絡先くらいさっさと交換しろって背中を押してくれるんだろうけど。私はこの気持ちを自分の中でゆっくり大事に育てていきたくて、まだ誰にも打ち明けたことがない。友達はみんな優しいから親身になってくれるだろうけど、もし孤爪くんの耳に入ってしまったら嫌なので絶対に言わないと決めてる。
夏休みは1ヶ月半もあったのに、ゲームのログイン履歴を見るだけでなんとか耐えられた。それに比べて冬休みはたった二週間くらいなのに耐えられない気がする。それくらい私の想いは日に日に大きくなってしまっている。
脈はない気もしないけど一方的な片想いで、自分ばっかり孤爪くんのことを考えていてたまに恥ずかしくなる。だから今まで、たまに自販機の前で一言二言話したり偶然すれ違って挨拶するだけの関係で我慢してきた。
本当はもう少し、もう少し……孤爪くんと仲良くなりたい。孤爪くんの隣にいる率ナンバーワンの黒尾先輩を時々妬ましいとさえ思う。
正直、孤爪くんに全然女っ気がないからあまり焦っていないのはある。でも孤爪くんはこれからどんどんかっこよさも可愛さも磨きがかかって、バレーもどんどん上手くなる。これは絶対そうに決まってる。髪を染めたりして垢抜けちゃったらみんながその魅力に気づいてしまう。そうなる前に、せめて黒尾先輩……には叶わないかもしれないけど、その次くらいには仲良くなりたい。
ヴヴ、とスマホが震えた。ゲームのログイン通知だ。
絶対に誰にも知られたくない秘密その一、私は孤爪くんがゲームにログインすると通知がくる設定にしている。
「あ、石くれた」
思わず頬が緩む。
12時間に一回フレンドに石をプレゼントできるのだが、孤爪くんはいつもくれる。だから私も孤爪くんに石をプレゼントし返す。
数少ない私と孤爪くんの交流だ。たかがゲームのことだけど、関わりを持てていることが嬉しくていつもほっとする。
冬休みも変わらずこうしてゲームできればいいな。もっと言えば、電話しながらとか、色々教えて貰いながら一緒にプレイしたい。けど流石に高望みか。
そんなことを考えていたらいつもの自販機について、孤爪くんの姿が見えないことに落胆しながら適当にボタンを押す。
「ミョウジさん」
「ひゃっ」
ガコンッと飲み物が落ちる音と同時に声をかけられて、びっくりして変な声が出た。勢いよく振り向くとそこには孤爪くんがいて、天にも昇る気持ちになる。
「孤爪くん!」
飲み物を拾うのと孤爪くんを見るのどっちを優先したらいいかわからなくて、謎にテンパる私を見て孤爪くんは可笑そうにしていた。恥ずかしい。
「あ、えっと、一人?」
「うん」
「そうなんだ……あの、孤爪くんは冬休みの予定は?」
「部活」
「そっか、冬休みも……本当に忙しいよねバレー部って」
「運動部は大体こんなもんじゃない」
「そうなのかな。私は向いてないや」
「ミョウジさん体力なさそうだもんね」
孤爪くんは買った飲み物を拾いながらこっちを見るから上目遣いになってるし、その上悪戯っぽく言うもんだからなんかずるい、すごくずるい。この感情なんていえばいいの。
私は「そうかな、えへへ」なんて適当になんの面白みもない返事をした。もっと話したいな。孤爪くんといると時間が憎い。
「でも、ちゃんと休みもあるよ。早く終わる日もあるし」
「そうなんだ、よかった」
「ミョウジさんは冬休み何するの?」
「んー、特に決まってないかなぁ。何回かバイト入って、それ以外は家でダラダラ過ごすよ。強いて言えばゲーム進めるくらい」
──しまった、正直に話しすぎた。孤爪くんは部活頑張ってるんだから、私も何か頑張ってるアピした方がいいのかも……。
「ふーん。ゲーム、何するの?」
「え? 孤爪くんが教えてくれたゲームだけだよ」
──ああっ、また失敗した……もっと他のゲームもやってる方がいいのかな。つまんない奴だと思われるかな……。
だんだん気分が落ちていく私をよそに、孤爪くんは少し目を見開いて何も言わない。
「あ、えっと、他のもやってみようかな! 暇だし!」
──暇アピールすんな私! 孤爪くんは忙しいんだぞ! もっと何かに打ち込んで頑張ってる女子の方が魅力的に思うかもしれないのに! もう!
一人心の中で自分を殴っていると、孤爪くんが少し何か考える素振りをした後に口を開いた。
「ゲーム……ある」
「え?」
「ゲーム、おすすめあるから」
「うん」
「教える」
「えっほんと?」
──やったー! また孤爪くんとの接点が増える!
子供みたいにぴょんぴょん飛び跳ねそうになるのを抑えて、期待のまなざしで孤爪くんを見つめていると、孤爪くんはおもむろにスマホを操作し出した。
「べつに嫌だったらいいんだけど」
孤爪くんはちらと私を見たかと思えば、目線を外して言った。
「LIME教えて」
「へっ」
──ら、らららLIME?! えっ、まって、何これ現実? 現実ってことでOK? いいの? まじ?
「まじ?」
「……嫌ならいいけど」
「嫌じゃないよ! ありがとう!」
孤爪くんがどうやら読み取り画面を開いているようだったので、私はすぐに自分のLIMEのコードを表示した。
「……登録した。あとで適当に送るから」
「うん! 待ってる!」
私がアホみたいに何回も頷いてるのを横目に、孤爪くんは「じゃあまた」と言って立ち去った。
また、って言ってくれるのが嬉しいけど、いつもだったらその「また」は自販機の前か偶然どこかで会った時にちょっと言葉を交わすくらいのことを指してたけど、今はそれにメッセージアプリでやりとりすることが追加された。
生きててよかった、と言ったら誰もが大袈裟だと呆れそうだが、私は今本気でそう思っている。
開きっぱなしのスマホにプッシュ通知が表示された。
<KENMAがスタンプを送信しました>
その名前にドキドキしながら通知をタップした。
けだるそうな猫がよろしくと言っているスタンプだった。可愛い。
私はすぐにお気に入りのブサイクウサギのスタンプを送った。そしたらすぐに既読がついて、返信もきた。
『部活終わったらまたLIMEするよ』
こんななんてことない文も、孤爪くんが打ったと思うとすごく嬉しくてドキドキする。私は頬が緩みきっていることもおかまいなしに、『わかった! 今日も部活がんばってね』と送ったあとにまたブサイクウサギのスタンプを押した。すぐに、けだるそうな猫がありがとうと言っているスタンプが送られてきた。
──スタンプ可愛い。猫好きなのかなあ。アイコンも猫だし。飼ってるのかな? 今度聞いてみよ。そういえば孤爪くんって猫に似てるよね。
孤爪くんのホーム画面を見ながら、にやにやが止まらない。ついに交換したのだ、連絡先を。しかも向こうから!
その日は幸せな気持ちでいっぱいで体がぽかぽかしてきて、寒さなんて感じなかった。
その夜本当に孤爪くんからLIMEがきて、おすすめのゲームや今やってるスマホゲームの話をした。気がついたら日付が変わりそうだったのでキリのいいところで『明日も朝練だよね! 頑張ってね』と言ったあとにブサイクウサギがおやすみと言っているスタンプを送りつけた。孤爪くんからは猫が丸まって寝ておやすみと言っているスタンプが送られてきた。
本当はまだ全然眠くないし、ずっと話したかった。でも孤爪くんの重荷になりたくないから我慢。
それから孤爪くんからLIMEが来ることはなかった。でも時々メッセージを送ると部活じゃない時間はすぐに返信が来るし、それでよかった。口数も多い方じゃないし、用がなければ連絡しないタイプなんだろうと思う。
孤爪くんの気だるげでクールな所も好きだから全然いいし、むしろそこが色んなギャップを生み出していて素敵だから孤爪くんにはそのままでいてほしい。
メリクリもあけおめも無事にLIMEで言えて、それだけで私の冬休みは最高だった。孤爪くんが部活で忙しい間におすすめされたゲームを進めて、少しでも話題ができるように頑張って図鑑コンプを目指した。
LIMEを交換したことでかなり生活に彩りがついたとはいえ、そんなにメッセージのやりとりはしないし相変わらず孤爪くんは部活が忙しいしで大きな変化はなかった。でも、着実に、孤爪くんのパーソナルスペースに溶け込んできているとは思う。気のせいじゃなければ。
あと少しで春が来て、春休みがきたらクラス替えがある。
できれば孤爪くんと同じクラスがいい。せめて隣のクラス。初詣でめっちゃ願掛けしといたからその効果があって欲しい。本来は神様にそんな私利私欲のお願いごとしちゃいけないらしいけど。
二年生の目標は、孤爪くんがバレーしているところをできるだけ見たい。試合とか見に行きたい。
去年は、嫌だとか来ないでって言われるのが怖くて聞けなかったけど。今年は頑張ってみる。今年は、去年よりもうすこし押してみる。
『二年生になったら、同じクラスだと嬉しいな』
春休み、思い切って孤爪くんにこんなメッセージを送ってみた。少しぶりっこなポーズをしているブサイクウサギのスタンプも忘れずに。
送信取り消しするか何回か迷ったけど、緊張しながら返事を待った。
数分後、スマホが震えたのと同時にがばっと体を起こして、思わず正座になりながらスマホを見つめた。
ドキドキしながらスマホを手に取り、通知をタップした。
『そうだね』
シンプルな四文字のあとに、気だるげな猫がにこにこ笑ってるスタンプが届いていた。
「よかったぁ……」
孤爪くんは優しいから、社交辞令の可能性は大いにある。けれど、それでも凄く嬉しくて体から力が抜けて、ベッドにダイブした。
──孤爪くんと同じクラスになれますように。
そう思いながら、残りの春休みを過ごした。
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