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座席はしばらくの間、番号順らしい。私と孤爪くんは遠からず近からずって感じで、孤爪感の方が後ろ寄りなので孤爪くんは私が見えるけど私からは孤爪くんが見えない位置。なんだか、今の私たちの距離感みたい、なんて。
きっと私が孤爪くんが見える席になったらずっと見ちゃうから、気持ち悪いと思われるかもしれない。だから、孤爪くんの視界に私の後ろ姿が映るのは恥ずかしいけどこれでよかったと思う。
孤爪くんは私のことなんて見ないだろうけど、背中にゴミついてたり髪型変とか思われないように気をつけようと思った。
孤爪くんは休み時間になるとすぐゲームを始める。誰も話しかけるなオーラがすごい出てる。だから私はその隙にトイレに行って身だしなみを整える。せっかく同じクラスでもあまり絡めなそうだけど、逆にいいかもしれない。あの感じじゃ他の女子もきっと話しかけないだろうし。
孤爪くんは正直モテない部類だと思うけど、それはいつもゲームしてて俯いてるし静かだからみんなが魅力に気づいていないだけだ。
話したら優しいし、声も落ち着いててかっこいいし、顔は整ってるし、バレーは上手いしで魅力しかない。ライバルが出来たら大変そうだから、そのままの孤爪くんでいてほしい。
バレー部は朝練があるから、孤爪くんが学校に来るのは超早い。だからその時間に合わせて登校するのは厳しい。本当は校門とかで「おはよ」って爽やかに挨拶したかったけど、諦めた。まぁそれは去年も同じだけど。
孤爪くんはHR10分前に教室に戻ってくるけど、朝練で疲れてる孤爪くんはすぐ机に伏せるかゲームするかの二択だ。だから孤爪くんが教室に戻ってくる時間帯は廊下にいるようにして、その時に「孤爪くんおはよう」って話しかける。孤爪くんは淡々と「おはよう」って返して終わりだけど、それで十分。
昼休みや放課後は、黒尾先輩とかバレー部の人達が孤爪くんを迎えにくることが多い。目立つのが嫌いな孤爪くんは呼ばれる前に気配を察知して、光の速さで教室を出て行く。たまに誰も迎えに来ない時はキョロキョロしていて可愛い。誰も迎えに来ない時は、授業が終わって10分後に教室を出て行く。私が孤爪くんと話せるのはそのタイミングか、今まで通り自販機に行くかどちらかだ。
新学期が始まって二週間、孤爪くんを観察し続けてこうして色んなデータをとった。我ながら気持ち悪いことしてるなと思うけど、「傾向を知らないと攻略はできない」って孤爪くんが前言ってたから、これはそれだ。ってことにしてる。
同じクラスだと自然や偶然を装うのが意外と難しくて、毎日必死だ。でも、教室という同じ空間にいれるだけで幸せだし、一年の頃よりも会話数は多いはずだから一歩ずつ前に進んでいる……と信じたい。
放課後、以前同じクラスだった子に呼ばれた。言われるまま体育館倉庫のところについていくと知らない男子生徒がいて、私を呼んだ子はいつの間にかいなくなっていた。
「ミョウジさん、来てくれてありがとう。実は……去年から気になってたんだ。よかったら俺と付き合ってくれないかな」
男子生徒が徐に話し出した。私は状況を理解しながらも、他人事のようにぼんやりと聞き流した。
「ごめんなさい、好きな人いるので」
きっぱりと返事をし、ていうか貴方誰ですかと思いながら私は足早に立ち去る。男子生徒がまた何か言おうとしていたが無視した。
せっかく体育館の近くに来たからちょっとだけバレー部覗いちゃおうかなって思ったら、少し離れた木陰によく知った姿が見えて心臓が跳ねた。
孤爪くんはしゃがみ込んでゲームをしていて、私が近づくとゆっくり顔を上げた。
「孤爪くん……何してるの?」
私が話しかけると、孤爪くんは「ゲーム……休憩中だから」と言った。
部活中のはずの孤爪くんにまさかこんな所で会えるなんて、と思って驚いたけど確かにここはバレー部が練習してる所から近かった。
「そっか、お疲れ様」
孤爪くんは「うん」とだけ言うとゲームに目線を戻してしまって、どうしていいかわからなくて、ちょっと気まずい。
休憩中なら邪魔せずさっさと立ち去った方がいいだろうけど、もう少し一緒にいたいというワガママな気持ちが私の足を地面に縫い付けた。
「少しだけ一緒にいていい?」
「……いいけど」
本当にいいのかなと思いつつ、お言葉に甘えて孤爪くんの隣にしゃがみ込んだ。
「さっきの人、誰?」
孤爪くんが言った。
「え?」
孤爪くんはゲームしてるから視線が合わなくて、何考えてるかよくわからなかった。
「さっきの人?」
「……男子」
「も、もしかして、なんか聞いてた?」
「べつに……ただなんか、あんなとこで何してるんだろうって思っただけ」
たしかにまぁ、体育館倉庫のところでコソコソしてたら気になるよね。コソコソしてたわけじゃないけど。かといってなんて言えばいいかわからなくて悩んだ。
「えっと……とりあえず、知らない人」
「知らない人?」
「うん、隣のクラスらしいけど」
「ふーん……何話してたの?」
「えっ、何っていうか……」
──なんだろう、なんか……尋問みたい。
いつもと少し違う空気感に、たじろいだ。孤爪くんはゲームから目を離し、私をじっと見据えた。道で会った野良猫にじっと睨まれて動けなくなる感覚に近い。
「付き合ってって言われたけど、断ったよ。それだけ」
私がそう言うと、孤爪くんが纏う空気がふわっと柔らかくなった気がした。
「そうなんだ」
孤爪くんはまたゲームに目線を戻して、指先を器用に動かし始めた。
「休憩、いつまで?」
「あと5分くらい」
「じゃあ、あと5分ここにいよー」
孤爪くんはちらと一瞬だけ私に目線をよこして、フッと微かに笑った。多分、居ていいって意味なんだと思う。
思わぬラッキーで孤爪くんと一緒にいることができて、今日はすごくいい日だ。
「……あのさ」
孤爪くんが言った。
その続きを待っても孤爪くんが何も言わないから、不思議に思って首を傾げた。
おもむろに孤爪くんが羽織っていたジャージを脱ぎ始めた。そして、私の膝の上にパサッとかけた。
「へ」
予想外の出来事に思わずアホみたいな声が出た。なんだろうこれは。
「洗ったばっかだし、今日まだそんな汗かいてないし、臭くないと思う……から。……足寒そうだから、かけといて」
孤爪くんは気まずそうに、でも一生懸命喋ってるのがわかった。少し顔が赤いような気もする。
──きゅーーーーーーーん!!!!
あまりの孤爪くんの攻撃力の高さに私は殺到しそうになった。
私は最高潮にドキドキしながら、孤爪くんがかけてくれたジャージを丁寧に掛け直した。
──孤爪くんのジャージだ……あったかい……柔軟剤のいい匂いする……。
正直、4月下旬の気候はそれほど寒くはない。それにスカートには慣れてるし。でも孤爪くんは私の足が寒そうだと思って、心配してくれたんだ。それがすっごく嬉しくて、何より孤爪くんの優しさにときめきが止まらない。
きゅんきゅんしているうちにあっという間に時間は過ぎてしまった。
「……部活戻るね」
「うん! がんばってね! ……あ、ジャージありがとう」
名残惜しさを感じながら、孤爪くんのジャージを畳んで返した。そよ風が足を掠めて、少し寒い。
「あんまり無防備に座っちゃ、ダメだよ」
孤爪くんはそう言い残して体育館に向かった。
「むぼーび……?」
──ちょっとよくわかんないけど、孤爪くんやっぱかっこいい〜〜!!
それからしばらくの間、私は孤爪くんの優しさや柔軟剤の香りを思い出しては満開に咲いたお花畑でスキップするようなテンションで過ごした。
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