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 ──なっなななななな……!!

「おはようミョウジさん」

 朝いつものように孤爪くんを待っていると、衝撃的な光景に上手く声が出ずに固まってしまった。

「こ、孤爪くん……?」

 掠れた声で恐る恐る声をかけると、孤爪くんは不思議そうに小首を傾げた。あ、その角度好きですありがとうございます……じゃなくて!!

「かみっ金髪になってるっ……!」

 思わず両手で口元を覆いながら言うと、孤爪くんは何でもなさそうに「ああ、うん」と言った。

「な、なんで?」
「虎に……部活の奴に、黒髪だと目立つって言われたから」
「めだっ……え?」

 ──全然意味わかんないどういうことなの黒髪だと目立つってなに?! でも、でも……

「めっっちゃ似合ってるよ孤爪くん! かっこいいよ!!」
「え、ありがとう……でもあの、ちょっと声大きい……」
「あっ、ごめんね」

 慌てて小声で謝ると、次は「近い」と言われた。ショック。でもそんな孤爪くんが好き!

 孤爪くんの髪はサラサラで、黒髪の時も綺麗だなって思ってたけど、金髪だと陽に当たった時にきらきら光って更に綺麗だった。
 それに、なんか絵本に出てくる王子様みたいで。金髪になった孤爪くんはかっこいいだけじゃなくて、透明感が出て儚げな雰囲気が増した。

 ──あんなのモテちゃうよ〜〜!!

 幸いうちの学校は校則がゆるいので派手な人は多いし、孤爪くんが金髪になっても意外と景色に溶け込んでる。でも、

「ねぇ、孤爪金髪にしたのウケない?」
「なんか存在感でたよね、急に」
「いつもゲームばっかやってて暗そ〜って思ってたけど、意外とやることやってんのかな?」
「えーどうだろ、だったらギャップありすぎ」
「孤爪すでにギャップあるよ、あいつバレー部」
「ええ?! うっそー、うちの男バレ結構つよいんでしょ? あいつ出来んの?」
「それがさー、レギュラーらしいよ」
「まじで?! 超うける全然想像つかない」
「今度見に行ってみる?」
「えーほかに誰いんのバレー部って」
「なんか一年にめっちゃイケメンいるらしいよ」

 ──ほら、急に孤爪くんに興味持ち出した。

 噂というほどでもないけど、孤爪くんが髪を染めてから教室や廊下で何回かこういう話が聞こえてきた。

 孤爪くんが大人しいからって小馬鹿にしてる人も、もしかしたら周りに合わせてるだけで本心では仲良くなりたいと思ってるかもしれない。バレーやってる時の孤爪くんを見たら好きになるかもしれない。

 ──どうしよう、孤爪くんに彼女ができたら。孤爪くんに彼女ができたら……諦められるのかな、私。

 そんなことを考えていたらだんだん気分が落ち込んできて、授業も集中できず机に突っ伏した。

 気づけばお昼休みになっていて、友達に起こされるまで寝てしまった。メタ発言になるが、あまり登場しないだけで私にもちゃんと友達はいる。

 ──孤爪くんはもう行っちゃったのかあ。

 教室を見渡して、目当ての姿がないことに少し落胆した。

「今日は自販機いかないの?」
「今日はいいや、微妙な時間だし」
「めずらしいね」

 いつもお昼は雪ちゃんと花ちゃんと一緒だ。雪ちゃんは一年の頃から一緒にいて、花ちゃんは二年になって仲良くなった。二人とも水筒を持ってきてるので、私はいつも「先食べてて」と言って一人で自販機に行っている。
 最初こそ「着いてくよ?」とか「毎日買うのめんどくない?」って言われたけど、「自販機混んでるから一人の方が早い」とか「自販機で買うのが好きなの」とか自分でもよくわからない理由で躱した。
 友達も大事だし好きだけど、孤爪くんと会う機会は限られてるからそのチャンスを最大限活用したいのだ。

 スマホを開くとLIMEの通知が溜まっていた。

 ──孤爪くんだ!!

 家族やバイト先のメッセージには目もくれず、秒で孤爪くんのトークルームを開いた。

『ずっと寝てたけど体調悪いの?』

 メッセージの下に、「大丈夫?」と猫が心配してる風のスタンプがあった。

 ──なんかわかんないけど心配されてる!

 きゅん。

『大丈夫だよ、考え事してたら寝ちゃった!(⸝⸝›ω‹⸝⸝)』

 私がメッセージを送信すると、すぐに既読がついた。

『ならいいけど』
『何考えてたの?』

 ポンッポンッと返信がきた。
 すかさず返信しようとしたけど、まさか孤爪くんがモテそうで怖いと思ってるなんて言えないので、嘘をついた。

『孤爪くんの髪質について!』

 またすぐに返信がきた。

『なにそれ、恥ずかしいんだけど』

 恥ずかしがってる孤爪くんを想像したら可愛くてにやける。

『孤爪くんの髪はサラサラで綺麗』
『あと金髪すごく似合ってる、かっこいいよ!』

 ついでにブサイクウサギが手でハートを作ってるスタンプも送信した。これは新作の動くタイプのスタンプで、最近のお気に入りだ。

 すぐに返信が来ないので、雪ちゃんと花ちゃんのおしゃべりを聞きながらお弁当を食べ進めた。

 スマホが振動したので開くと、孤爪くんからだった。

『ミョウジさんの髪の方が綺麗だよ』

「へぇあっ」
「どうしたのナマエ」
「ごめんなんでもない、えへへ」
「なんかにやついてる、怪しい!」
「なんでもないってば〜」

 "『綺麗だよ』"

 ──孤爪くん、ずるい!!

 何度もその文字を見て、ドキドキする。まさにクリーンヒット、ストレートホームラン。

 ──孤爪くんに髪、褒められちゃった。

 恥ずかしくて、嬉しくて、ドキドキして、まともに頭が回らない。なんて返事すればいいかわからなくて、照れて顔を赤くしてるブサイクウサギのスタンプだけ送った。

 その日はなんだか孤爪くんを見るのが恥ずかしくて、孤爪くんが教室に戻ってきた気配がしても、授業中も休み時間も振り向けなかった。帰る時にやっと「孤爪くん部活がんばって」とすれ違いざまに言うのが精一杯だった。

 夜寝る前、スマホが震えた。
 通知一件。

 <KENMAがスタンプを送信しました>

 孤爪くんからLIMEが来たのが嬉しくて、ドキドキしながらすぐに開く。

 いつもの気怠そうな猫が丸まって「おやすみ」と言っているスタンプだった。だらしなく緩む頬をそのままに、私もすぐにブサイクウサギのおやすみスタンプを送った。既読はすぐについた。

 ──もしかして、脈アリ?

 体調心配してくれたり、髪綺麗って言ってくれたり、寝る前にLIMEくれたり。孤爪くんは優しいから、社交辞令かもしれない。でも、孤爪くんが社交辞令でそんなことする人にはあんまり思えない。かといって、私のことどう思ってるのかは全くわからないから不安。

 ──頭こんがらがってきた。ネガティヴな思考は肌に悪いし、とりあえず明日は新しい化粧品買いに行こ。

 孤爪くんに可愛いって言われたい。そう思いながら眠りついた。




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