7
毎日じめじめとした天気が続く六月のある日。
昼休み、いつものように黒尾先輩が孤爪くんを迎えにきた。よくある光景だ。でも、いつもと違うことが起きた。
「ミョウジさん、ごめん、ちょっといい?」
まさかの孤爪くんに呼ばれた。
なんだろうと緊張しながらついていくと、「やっほーナマエちゃん」と言いながら手を振る黒尾先輩がいた。
「相変わらず可愛いねぇ、というか前より可愛くなった?」
「クロ」
「やだ研磨クンこわ〜い」
だる絡みしてくる黒尾先輩に、孤爪くんが思いっきり睨んでる。そのやりとりが面白くて笑ってたら、孤爪くんに「クロがきもくてごめんね」って言われた。仲良いなぁ、黒尾先輩羨ましい。
「でナマエちゃん、単刀直入に言うけど、マネージャーやらない?」
「はい?」
「バレー部のマネージャー」
「ばれえぶのまねーじゃー?」
びっくりしすぎて黒尾先輩の言ったことをそのまま復唱すると、黒尾先輩には「赤ちゃんかよ」と笑われ、孤爪くんはなんか不安そうに私を見ていた。
「そうそう。うち、ずっとマネージャーいなくて困ってんの。まぁ簡単なことじゃないから、じっくり考えてくれていいんだけど。とりあえず、コレ渡すから目通してちょーだい」
ハイ、と黒尾先輩に渡された紙を受け取る。
マネージャーの業務内容と、直近の練習試合や合宿のスケジュールが書かれている。
「あの……どうして私なんですか?」
「んー、まぁ研磨と仲良いし、真面目そうだし、花があるし」
「はな」
「いてくれるだけで空気がぱっと明るくなりそうってこと。もちろん俺たちも力仕事は手伝うから安心してちょーだい」
「……とりあえず、これ見て考えます。いつまでに決めれば良いですか?」
「んーそうだな、とりあえず今月中。まぁ受験とかバイトとか色々あるだろうし、無理強いはしないからね」
「わかりました」
──マネージャーかぁ、考えたこともなかったな。
「ミョウジさん、嫌だったらちゃんと断っていいから」
孤爪くんが言った。
それから数日間、もらった紙を見過ぎてもはや内容を一語一句覚えた。
マネージャー業は結構、大変そうだ。簡単にへらへら返事するようなものではないと思った。遠征や合宿も多いみたいだし、休みはあまりない。バイトは確実に辞めることになる。まぁバイトは元々そんなに入ってないし、暇つぶしにお小遣い稼ごうかなってノリで適当に続けてるだけだからすぐに辞めれるし、それはいいんだけど。
孤爪くんをずっと見ていて、私も何か頑張れることを見つけたいとは思っていた。だから、少し興味は湧く。
でも、素人が急に飛び込んでいいんだろうかという不安がある。孤爪くんがやっているからと言う理由で、バレーの知識はある程度調べて知っているけど。それでも、邪魔になるんじゃないだろうか。
バレーやってる孤爪くんをたくさん見れるという大きなメリットはあるけど、そんな邪な気持ちでマネージャーをやるのは良くないと思う。それにまだ孤爪くんに気持ちを伝えてないけど、マネージャーをやったら更に伝えづらくなる気がする、一生懸命やってる孤爪くんにも、他の人達にも、なんか失礼な気がして。
マネージャー業をやりたい気持ちと、やりたくない気持ちは半々だ。
もうすぐ期末試験もあるし、一生ぐずぐず悩んでたら勉強なんて集中できないし時間だけ過ぎていきそうで、そういう面でも更に悩む。
「あーーどうしよーー」
マネージャーの勧誘を受けてから数日後、放課後教室の掃除をしてる時に溜息ばっか吐いてた私はついに声に出して項垂れた。
「なによ、どうしたのよナマエ」
雪ちゃんが言った。花ちゃんも訝しげにこっちを見ている。
「ハァーーーー」
返事する気にもなれなくて、私は二人の顔を見て更にでかいため息をついたらバシッと背中を叩かれた。音はすごいけどあんま痛くなかった。
「人の顔見てため息つくな」
「ごめん、ちょっと色々考えごと」
「でしょーね」
「うちらには話せないこと?」
「んー、話せないっちゃ話せないけど話せるっちゃ話せる」
「なにそれ、じゃあ話してよ」
「うーーん」
「ねぇ、うちらのこと嫌いなの?」
「え?」
花ちゃんの爆弾発言に、私はびっくりして固まった。ここ数日悩んでたことが今はどこかへ吹っ飛んだ。
「嫌いなわけないじゃん!」
私がそう言うと、二人は少しほっとしたような顔をしたけど、まだ腑に落ちないようだった。
「二人とも大好きな友達だよ。雪ちゃんは美人で優しくてたまに口調きついけど無闇に人の悪口言わないから信用してるし去年からずっと一緒にいてくれて嬉しい。花ちゃんも可愛くて頭良くて一緒にいて楽しいし同じクラスになれて本当によかったって思ってる。二人ともいつも仲良くしてくれてありがとうって、思ってるよ!!」
私は少し照れながらも二人のことどう思ってるか必死に説明した。なんか、わかんないけど誤解があるみたいだから。
二人は私の話を聞くと少し顔を赤くして、下唇を噛んで変な顔をしていた。
「わかったよ……そんなこと思ってくれてたの、嬉しい」
「うちらもナマエのこと大好きなんだよ、だからいつも一人で何か悩んでるみたいで寂しかった」
「え……そうなの?」
「そうだよ! でも、ナマエはすぐ自分の世界入っちゃうから邪魔になるかなって思ってあんま聞けなかった」
「うちらに何も言ってくれないのは、信用されてないんだって思ってた」
「ご、ごめんね二人とも。そんなつもりはなかったの」
「ナマエは可愛くてモテるから、うちらよりもっと仲良い子がいて、そっちには色々話してるのかなとか、思ってた」
「ええーっ! 二人より仲良い子はいないよ、私そんなに友達多くない。買い物もデズニーも、他に行く人いないし」
「そうなの?」
「そうだよ!」
なんだか浮気を疑われてる気分だったけど、二人は私に対してすごく色々思うところがあって不安だったんだと思うと申し訳ない気持ちが勝って、一生懸命話した。
私は恋愛にうつつを抜かしすぎて友達をないがしろにしてたんだ、最低だな。そんな自分が嫌になった。
「よかったぁ〜……」
「なんか、こんなこと言ってごめん。でも話せてよかった、ずっとモヤモヤしてて……ナマエのこと大好きだから」
二人がそんな風に言ってくれて、私も安心した。友情がアップデートされたみたい。
「ごめんね、二人とも」
「そうねー、今悩んでることひとつ話してくれたら、許してあげる!」
「私も! ナマエの話聞きたい!」
「うん……わかった! じゃあ、腹括って話す!」
「えっ腹括るの? そんなおおごと?」
とりあえずこんな時はマック、と駅前のマックに向かった。
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