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「どこから話して良いかわかんないんだけど……とりあえず、男バレのマネージャー頼まれたんだ」

 そう言うと、二人は少し驚きながらもうんうんと興味津々に聞いてくれた。

「えーっ、それでどうするか悩んでるんだ」
「まぁうちら受験控えてるし、今から両立できるかってのもあるよねー」
「うん、でも私なにかに打ち込んだことないから、やってみるのもアリかなーって思って。なんかほら、今しかできないし。青春って感じする」

 私と同じく帰宅部の雪ちゃんは、「あーそれはわかる」と言いながらポテトを食べた。茶道部の花ちゃんは「運動部まじ大変そうだよねー。でもたしかに、青春っぽい」と言った。

「うん、毎日朝練もあるし放課後は遅くまでやってるし、休みの日も合宿とかでほとんど無いみたい。汗かいて真剣にボールトスしてる所とか凄くかっこいいんだよね!」

 孤爪くんのことを思い出しながら、つい熱を込めて話してしまった。

「へーぇ、ナマエ詳しいね」
「トスねぇ」
「トス」
「かっこいいんだ〜」

 なんだか二人がにやにやし始めたので、冷や汗をかいた。

「いやっ、ちがうよ! マネ勧誘された時にもらった紙に、書いてあったの!」
「ちがうって何が?」
「私たち何も言ってないけど」

 雪ちゃんはにやにやしながらスマホを操作している。なにか嫌な予感がした。

「トス……アタッカーに送られるボール……主にセッターによって上げられる……」

 雪ちゃんはトスについて調べたらしい。

「ナマエはバレー部のセッターが好きなの?」
「いや、べつに……」
「バレー部のセッター誰だろ?」
「さぁ」

 私はいたたまれなくて、唇をぎゅっとして冷や汗をかきまくった。なんか寒い。

「え、もしかして孤爪?」

 花ちゃんが身を乗り出して言った。

 なんて返せばいいか頭の中で色々考えすぎて、ちょっと気持ち悪くなってきた。でも二人のことを信用してるって言った手前、内緒にするのはいかがなものかと思ったし、結局それが私の悩みでもあるし、今ここで打ち明けるしかないと判断した。

 私が小さく頷くと、二人は目と口を大きく開けてお互いに顔を見やった。

「ま、まじ……?」

 私がまた頷くと、二人は手を取り合って「きゃー!」ってはしゃぎだした。

「孤爪いいなー羨ましいなー」
「ねー」
「てか、いつから好きなの? 髪染めてから?」
「え? 去年の夏……だよ」

 はしゃいでた二人は今度はショックを隠しきれないようにしーんと固まった。

「ごめん、ずっと言わなくて。自分の中でこの気持ち、大事にしたくて……二人のこと信用してないとかじゃなくて、孤爪くんに伝わったら嫌だから、誰にも言わないって決めてたの」

 私が言うと、雪ちゃんは「言わなかったことに関してはもういいよ、気にしないで」と言った。花ちゃんも「その気持ちわかるよ」と背中を優しくぽんぽんしてくれた。

「そんな前からずっと好きだったのは予想外だった」
「もしかしてもう付き合ってるの?」
「えっそんなわけないよ! 違うよ、ずっと私の片想いだよ」
「まじか……」
「うそでしょ……」

 雪ちゃんは額に手をついて俯いて、花ちゃんは口を両手で覆って私を凝視してきた。なんだか居心地が悪い。

「どうしたの二人とも」
「いや、なんか予想外が重なりすぎてびっくりしてる」
「ナマエってけっこう鈍感なんだね」
「え、私鈍感かな?」
「私達ね、実は……孤爪はナマエのこと好きなんだろうなーって思ってたの。だから今ナマエが孤爪のこと好きって知って、両思いじゃん! と思って感動したんだけど。ナマエがそんなに前から孤爪のこと好きだったのも意外だし、ナマエが片想いだと思ってるのも意外で、なんか……なんて声かければいいかわからない……」
「えっなにそれ?!」

 花ちゃんが放ったあまりの衝撃発言に動揺を隠せない。

「孤爪くんが私のこと好きってなんの話? 何でそう思うの?」
「だって、孤爪ゲームばっかしてて全然しゃべんないし、しゃべっても笑わないしそっけないじゃん。でもナマエと話す時だけなんか優しいし、よく笑ってる!」
「えーそうかな? 孤爪くんいつも優しいよ」
「だからそれナマエだけだってば。あとこれは私達しかわかんないかもしれないけど、ナマエのことよく見てる!」
「えー、孤爪くんが見てたらわかるよ。私孤爪くんセンサーついてるから」
「いや、あんた全然気づいてないよ。たまに気づいてるけど確率低いよ」
「まじで?!」

 全然知らなかった事実に、驚きと嬉しさと淡い期待と、でもそれが本当かどうかわからない疑念で情緒がおかしくなりそうだった。

「ナマエはモテるし、孤爪には興味ないだろうなって勝手に思ってたから言わなかったの。孤爪がんばれーとはたまに思ってたけど」
「えー……私、孤爪くんに興味なさそう?」
「ゆーてそんな深く考えたことなかった。よく思い返してみれば、ナマエも孤爪には優しいかも」
「たしかに、男子には基本塩対応なのに孤爪には優しいかも」
「なんか恥ずかしくなってきた」

 私が項垂れると、二人はクスクス笑った。

「もー……笑わないでよぉ」
「ナマエは孤爪のどこが好きなの?」
「えっ」
「私も気になる!」
「……孤爪くんは、一見暗そうに見えるけどちょっと人付き合いが苦手なだけで、私がどんな話してもちゃんと聞いてくれるし、すごく優しいし、いつもゲームやってて顔見えないからみんな気づいてないだけで実は顔整ってて肌も綺麗だし、髪の毛もサラサラで綺麗、声も落ち着いててかっこいいし、そうそういつも冷静で大人っぽいの、嫌なことあると顔に出るところとかリンゴジュース好きなところとかは子供っぽくて可愛い、あと同じゲームやってるんだけど毎日石くれるし色々教えてくれて親切、勉強もわかんないとこ教えてくれるし頭良いんだよ、あと何よりバレーがすっごい上手でそこがもう格好良すぎてやばいの、部活ほんとハードそうなのに毎日がんばっててすごすぎる、休まず学校くるところも尊敬する、とにかく孤爪くんがバレーやってるとこ一回見てほしい、あと」
「あーもうわかった!」

 しまった、初めて人に聞かれたからここぞとばかりに孤爪くんの魅力を語ってしまった。「まだあるんだよ!」と言うと、雪ちゃんに「ハイハイ」と言われた。

「ナマエがそんなに孤爪のこと好きだとは思わなかった」
「本当に好きなんだね、ファンじゃん」
「うん、大好き!」

 ついさっきまで内緒にしてたのに、今は開き直って孤爪くんへの気持ちを語る私に二人は呆れながらも優しい表情で笑ってくれた。

「それで、どこまでいったの?」
「え?」
「デートとか行った?」
「デート?! そんなの無理だよ、告白もしてないし」
「ばかねぇ、デートに行ってから告白するのよ!」
「えーっそうなの?」
「ていうか私的には孤爪から誘えよって思うけどね」
「いや、孤爪くんは忙しいから難しいと思う」
「デート一回くらいで忙しいとか言ってんじゃねー!」
「てか孤爪ぜったい奥手だよね。自分から誘うとか無理そう」
「たしかに。でもナマエ相手にして、余裕ぶっこいてんじゃないよって思う」
「うん、もっと焦ったほうがいいよね」

 なぜか二人とも孤爪くんに対してイライラし始めたので宥める。

「やめて、孤爪くんを悪く言わないで!」
「悪くは言ってないよ、ただ好きなら男見せて欲しいわけ」
「そうそう、私たちのナマエをもっと大事にしてほしいの」
「いや待って、孤爪くんが私のことどう思ってるかわからないからやめて」
「はぁ……まさかナマエがこんなに鈍いとは思わなかったわ」
「みんなナマエのことクールビューティーって思ってんのに、こんなにぽやぽやした子だなんて言えないよ」
「え、私貶されてる?」

 それから少し話が脱線して、雪ちゃんが立て直すように「孤爪の優しいところがイマイチわかんないんだけど、具体的になんかされたとかないの?」と聞いてきた。

 私は「そんなのいっぱいあるよ!」と言って、いろんなことを話した。部活で疲れてるのに寝る前にLIMEくれる話とか、授業中寝てただけで体調心配してくれた話とか、寒いからってジャージを膝にかけてくれた話とか、他にも色々。
 話しているうちににやにやしていたらしく、少し引かれた。

「普通好きでもない女子にそんなことしないよ」
「そうかな、でも孤爪くん優しいから」
「いや私には下心を感じる」
「私も。びんびん感じる」
「私以外にもしてるかもしれない」
「絶対ない」
「ないね、ありえない」
「あの孤爪だよ?」
「雪ちゃんも花ちゃんも、孤爪くんに失礼だよ」
「いや孤爪をディスるつもりはないよ、ただナマエが鈍いからなんか」
「そうそう、ていうか孤爪が可哀想になってきた」

 雪ちゃんと花ちゃんは、やれやれといった感じでもうほぼ中身の無くなったドリンクをズゴゴと音を立てて飲んだ。

「まぁとりあえずさ、自信持ちなよ。じれったいよ」
「うん、絶対脈アリだから大丈夫だよナマエ!」
「マネージャーもやりなよ、大変だったらうちらも何か手伝うし」
「えー……でも、邪魔になったら嫌だし」
「邪魔だったらはなからお願いされないよ」
「でも、孤爪くんに『嫌だったら無理にやらなくていい』って言われたよ」
「それは気使ってるんでしょ」
「本当は嫌なのかもしれない」
「そんなのわかんないじゃーん!」
「わかんないから不安なの!」
「いいじゃん、好きなんでしょ? マネなったらバレーやってるとこいっぱい見れるよ」
「そうだけど……そんな下心でなっちゃいけないと思う」

 私が反論ばっかしていると、雪ちゃんはハァと大きな溜息を吐いて「あのねぇ……」と続けた。

「そんなこと言ってる場合じゃないよナマエ! 高校生活あと二年もないんだからね! 孤爪最近垢抜けたし、油断してると誰か他の女がマネージャーになって取られちゃうかもしれないよ!」

 雪ちゃんが私の両肩を掴んで凄んだので、その迫力に圧倒されて私はごくりと息を飲み込んだ。

「毎日しっかりヘアセットしてメイクして学校来るのは誰のため? 孤爪に可愛いって思われたくて、好きになって欲しくて頑張ってるんでしょ? 実際、ナマエはすっごく可愛いんだから自信持ちな! 学年一って言っても誰も否定しないと思う。孤爪がナマエに興味ない訳ない、見てたらわかるもん!」

 雪ちゃんは一気に捲し立てて疲れたのか、フゥと息を吐くと力の抜けたように私から離れて椅子に凭れた。

「そうだよナマエ、自信持ちなよ。応援するし、いつでも話聞くよ」
「うん……誰にも言わないでね、二人とも」
「もちろん広めたりしないよ。まぁ勝手に気付いてる人もいそうだけどね、あんたに振られた男とか」

 「男の嫉妬は根深いんだよ〜」って言いながら雪ちゃんがにやにや笑った。
 
「とにかくさ、マネージャーやってみれば? そしたら一緒にいる時間も増えるし、孤爪ももっとナマエを意識して我慢できなくて勝手に告ってくるよ」

 花ちゃんが言った。

「でももしそんなことなかったら? もし私が告白して振られたら? そんなの、部活の空気壊しちゃうよ……」

 私がそう言うと、二人はうーんと唸った。

「大丈夫だと思うけどなぁ。まぁもしそんなことになっても、うちの男バレは強豪なんだからそんなこと気にしてるほど暇じゃないと思うよ」
「た、たしかに……私みたいにお花畑脳じゃないもんね」
「そうそう、周りに気使えるのはいいけど、自分の青春も大事にしなよ」
「そうそう、向こうが草食系ならこっちが肉食にならないと」
「やだ花ちゃんったら大胆」

 みんなでけらけら笑っていたら、大分気持ちが楽になった。たくさん話を聞いてくれて、背中を押してくれて、二人には感謝しかない。

「やば7時過ぎてるじゃん、そろそろ帰らないと」
「うちらどんだけ話してたのうける」 

 店から出ると、あろうことが男バレの集団とばったり出会した。

「あれ? ナマエちゃんじゃん」
「黒尾先輩コンニチワ」
「女の子がこんな時間までマックにいるのダメですよ!」
「誰ですかそれ何キャラですか」
「ちゃんとした夕飯食べなさい!」
「お母さんだ」

 私と黒尾先輩がしょうもないやり取りをしていると、物凄い視線を感じた。ぱちり。孤爪くんと目が合った。

「孤爪くんお疲れ様」
「ありがとう。ミョウジさんもお疲れ」

 どうしようと思っていると、雪ちゃんと花ちゃんが「お疲れ〜」と孤爪くんに言った。孤爪くんは「あ、うん」と言って視線を下に向けた。

「ほら、うちらと対応全然違うじゃん!」
「違うってほどではないと思う」
「いや違うね、表情が特に」

 私たちがコソコソ話している間に、向こうは「研磨が女子と話してる!」とか「なんだと?!」と盛り上がっていた。孤爪くんは心底不快そうにしていた。

「ナマエちゃん、こいつらうるさいけど気のいい奴らだから。怖がらないでね」
「ハイ」

 ──なんか黒尾先輩にジワジワと取り込まれてるような気もするな。

 男バレ集団はやいやい楽しそうにしていたので、私達はそそくさと駅へ向かった。

 二人と別れてホームに立っていると、「ナマエちゃん」と声をかけられた。

「黒尾先輩……と、孤爪くん」

 まさか同じ方面だなんて、知らなかったので驚いた。

 ──リップ乾いてないかなぁ……髪ヘンじゃないかなぁ。

 今日は色々起きる日だなぁと思いながら、手櫛で髪を整えた。孤爪くんはゲームに夢中だ。

「奇遇だねぇ、こっち方面なんだ」
「はい、私もびっくりしました」

 黒尾先輩に「駅どこ?」と聞かれたので答えたら、なんと黒尾先輩と孤爪くんの最寄駅の隣だった。その話で黒尾先輩と盛り上がっているうちに電車が来たので乗る。

 帰宅ラッシュだけど、各駅なのでわりと空いてる。でも、いつもより少し、孤爪くんと近くてドキドキする。

「あの話、決めた?」

 黒尾先輩が言った。マネージャーの件だろう。
 黒尾先輩は狭そうに体を折っているが、それでも頭二つ分も大きいから見上げる首が痛い。

「それ、今ここで聞きます?」

 私がそう返すと、黒尾先輩はクスリと笑った。なんだか心の中を見透かされているように感じて居心地が悪くなったけど、負けじと目を合わせた。

「やります」

 私がそう言った途端、孤爪くんが顔を上げた。びっくりした顔だ。

「お、まじ?」

 黒尾先輩は飄々としていて何考えてるのかわからない。
 孤爪くんは私を見つめて、「大丈夫? 大変だよ」と言った。こんな時に思うことじゃないだろうけど、やっぱり孤爪くんはかっこいい。

「うん、大丈夫。がんばります!」

 ほんの少し気恥ずかしい気持ちを払拭するように、自分に対して頑張れって鼓舞するように、孤爪くんに大丈夫そうって思わせられるように、思いっきり笑ってみた。

「……そっか。よろしくね」

 孤爪くんは相変わらずクールだけど、ほんの少し微笑んでくれた。優しい、大好きな顔だ。

「よろしくな、ナマエちゃん」

 黒尾先輩が言った。私は二人に「よろしくお願いします」と会釈した。

 それから他愛もない会話をしているうちに最寄駅に着いた。

 今日あった色々なことを思い出しながら歩いていると、ヴヴッとスマホが震えた。

『マネージャー本当に大丈夫?』
『俺は嬉しいけど』
『夜道気をつけてね』

 孤爪くんからのメッセージだった。

 この気持ちを表す言葉が見つからないけど、とにかく胸の奥が熱い。少ない文字を何度も読み返して、孤爪くんの優しさを感じる。

 ──嬉しいって言ってくれた……。

 ──孤爪くん、それ、本当?

 ドキドキとワクワクと不安でぐるぐる回る。

『大丈夫だよ。たくさん悩んだけど、頑張ってみようと思ったの! 足引っ張らないようにする( >_< )』
『色々ありがとう♡ 孤爪くんは優しいね』

 送信すると、すぐに返事が来た。

『何かあったら言って。頑張れ』
『べつに、優しくないよ』

 孤爪くんらしい文章に、ふふっと笑みが溢れる。

 ──こんなに優しいのになぁ。

 無意識でも意識的でも、私をこんなにドキドキさせる孤爪くんはずるい。すごい。大好き。

 何回かやりとりをして、おやすみのスタンプで終わらせた。ゆっくりゆっくり進んでいた何かが大きく変わりそうな予感に心をざわめかせながら、孤爪くんへの気持ちを抱きしめて眠りについた。




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