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「主さん、どうなんした?」
「いやぁ、あまりにもお前さんが綺麗だから、見惚れてしまったわ。花街イチの美人を肴に酒が呑めるなんて、俺は幸せ者だなぁ」
「まぁ、しゃれなんすな。わっち以外にも言ってるでありんすね?」
「まさか!お前だけに決まってるだろ。さては妬いているな?可愛いやつめ」
恥ずかしそうに口元を袖先で隠して微笑めば、目の前の男は顔を熱らせだらしない顔をして酒を煽った。
貼り付けた笑顔を向けられて幸せだなんて、羨ましいこと。この男はまだたった2回しか会ってないというのに、よくもまぁ知ったような口を聞く。
冷めた心の内を悟られないよう、評判の良い笑みを崩さぬまま男のお猪口に酒を注いだ。
「また来てくんなんし」
耳元で息をかけるように囁くと、お客はだらしない顔を更にだらしなく崩して、もじもじしながら去っていった。
毎夜毎夜好きでもない男に笑顔を振りまき、嘘か誠かもわからないつまらぬ自慢話を親身に聞き、不本意に抱かれ、そんな生活をする内に、空っぽの心は重い泥で埋まっていった。
辛くとも笑顔でいられるのは、ただの癖だ。自分の意志とは離れたところで勝手に、体がそういう仕組みになってしまった。
§
15歳になると上背が伸び、乳房は豊かさを増し、私の体はすっかり"女"に仕上がった。
男どもが私を見る目に粘り気が増し、視線を感じるたびにぞぞぞと虫酸が走り、逃げ出したくなった。けれども、これは"商品"として高く売れるものだと誰に言われずともわかっていたので、擦り潰れる心を見ないようにしながら、私は懸命に働いた。
§
16歳になって間もなく、私はついに花魁になった。
花魁になると、自分の部屋を与えられ、繕う着物は豪華になり、食べたい物を食べられるようになった。
客を選べるようにもなったが、誰も彼も嫌いなので、結局私は選べなかった。
「卑しい子。一体どんな手管でそぐわぬ位に座るようになったのか」
常よりも早い段階で太夫になった私を好かない者は多かった。特に、私に抜かれ番付を下された女郎からは手酷い仕打ちを受けた。
お気に入りの笄を盗まれるなんて可愛いもので、井戸に突き落とされたり、お菓子をくれたかと思えば毒を盛られたり。運がいいことに私は身体が丈夫なようで、いずれにしろ少し寝込んだだけで治ったのだが、それも女郎たちの怒りを助長させることになった。
楼主に助けを求めたところで、大した役には立ってくれない。自分しか自分を守れないし、信用できないのだということを、私はつくづく実感した。
元より、こんな場所で誰かを信用するなんて幻想を抱くようなものだったが。
間夫だなんだと色恋に耽り、その身を滅ぼす女郎を多く見てきた。男は女を裏切るし、女もまた男を裏切るのだ。散々それを目の当たりにしてきて、人を信用、ましてや好きになるなどどうして出来ようか。
どれだけ寵愛されようと、金を積まれようと、私の気持ちが誰かに靡くことはなかった。
2020/5/1
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