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半月後、いよいよその日が来た。
雲ひとつない青空を見上げながら、山積みの金を前に腰を抜かしてあたふたとする楼主の様子を思い出し、忍び笑いをした。あれは傑作だった。
正晴さんが私を身請けしたいと話し始めた時は、楼主はいつもの薄ら笑いを浮かべ余裕な態度だったというのに、金の力たるや。目は飛び出しそうなほど、口は外れそうなほどにぱっかり開かれた顔はそれはもう可笑しかった。
あれだけの大金を持ってこられてはもう私を引き留める手はないと判断したらしい楼主は、悔しそうにキセルを握りしめていた。
大門の前に見送りにきた朋輩たちからは、別れを惜しみ泣いてくれる者や、祝いの言葉を投げてくれる者もいたが、またとない好機とでも言うように暴言を吐いてくる者もいた。
「廓育ちの御職女が、大門の外に出たところで幸せになれるものか。老いぼれて用無しになれば、せいぜい
雪隠の掃除くらいしか役に立たんくなるのは目に見えていんす。ほんに、哀れじゃわぁ。邪魔者が消えてこっちは清々しんすけど……ふっ、ふふふっ、あはははは!」
下品な高笑いをする女の目の前を、私は他人事のように通り過ぎたが、チッと舌打ちが聞こえ、そんなに構ってほしいのならと仕方なく振り向いた。
呆れた目を向け溜息を吐いてやると、女はギチギチと歯を食いしばり、唇をひん剥いて私を威嚇していた。なんとまぁ醜い表情だこと。ひくひく泣いていた禿がその顔を見て固まっているぞ。
「何とでもお言いなんし。哀れなんはお互い様じゃ。……おさらばえ」
最後、私の為に涙を流していた禿に少しだけ微笑んでやると、私は大門へ向ける足を動かした。もう、二度と振り返ることはしない。
大門の外に足を踏み込んだ瞬間、感極まって涙が溢れ出た。
外に出るのはこんなに簡単なことなのに、今までずっと出来なかった。たった数寸の境界線を越える為だけに地獄を生きてきた。本当に、私の人生とは、なんて馬鹿馬鹿しいんだろうか。
いや、でも、やっと外に出られた。これからやっと、"普通"になれる。やっと"普通の人間"になれる。そう思うと嬉しくて嬉しくてたまらなくなって、どこまでも広がる青い空を、素直に美しいと思えるのだった。
2020/5/2
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