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あまね様に案内されて、私は広い座敷に通された。
これから"お館様"に会うのだ。あまね様の旦那様のことを、鬼殺隊の方々は敬意を称してそう呼ぶらしい。
緊張しながら待っていると、間もなく襖が開かれた。
お出ましになったお館様は、想像していたよりずっと若い風貌だったので驚いた。ご尊顔は愛らしくて、つい呆けた顔で見入ってしまったが、その凄まじい存在感と威厳を感じて私は深く首を垂れた。
「すみれさん。まず、君の尊い命が救われたこと、とても嬉しく思っているよ」
お館様は不思議な御仁だった。お館様が言葉を紡ぐたび、そのお声によって身体中の細胞一つ一つが柔らかく包み込まれるような、体感したことのないふわふわとした安らぎを感じた。
「すみれさんがここに来るまでの経緯は、あまねから聞いたよ。これまで大変な思いをしてきたんだろうね」
お館様の声は私の緊張を解したが、自分の身の上の話になるとやはり気が沈んだ。
「わっちは……普通じゃありんせん。ずっと廓の外に出ることを夢見て生きて参りんしたが、いざ外に出てみると、世情のことを何も知らない己の無知さに、恥を知りんした……」
だんだん声が窄んでゆく私の話を、お館様はお優しい表情で見守りながら聞いてくれた。
「君は、自分を卑下する癖があるのかな。あまり自分を責めてはいけないよ。君は何も可笑しいところなんてないし、とても魅力的だ。」
「……そうでありんしょうか……」
「もっと自信を持つと良い。辛いことが沢山あると思うけど、まずは、今こうして生きていることを誇りに思うんだ」
「生きていることを、誇りに……?」
「そうだよ。君が思っているよりもずっと、人生は色々なことで満ち溢れている。何かを憂うことも、大切に想うことも、生きているからこそできることなんだ。消えた命は戻らない、何もできない。でも君は生きている。自分を大事にしなさい」
お館様の言葉が、頭の中でこだまする。
生きることに意味なんてないと思っていた。
死ぬのは嫌だから、仕方なく生きていただけだった。
──自分を大事にするってなんだろう?
今までそんな選択肢無かったからわからない。わかるようになるだろうか。これから私は、何か変われるだろうか。好きなように、生きて良いのだろうか。
「あまねは君がここにいることを望んでいる。そして私もそれに賛成している。不思議なことに、出会ったばかりの君に対して私達はどうしてか、御節介を焼きたくなってしまうんだ。すみれさん、どうかな」
こんなに優しい言葉をかけて頂いて、差し出された手を跳ね除けるなんぞ誰がしようか。そんな罰当たりなことできるわけがない。私は須く上体を屈し畳に手をついた。
「よろしくお頼ん申しいす」
2020/5/4
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