今月分の給与から、家にいれる分をもう一度暗算する。 俺の生活費を差し引いても、きっとこれくらいの金額があれば 父さんの稼ぎと合わせたら まあまあ苦しくはないんじゃないか、 というくらいの額を、コンビニのATMから母さんの口座に振り込んだ。 銀行のキャッシュカードと明細を 取り出し口から財布に入れながら機械から離れると、 ちょうどガラス窓の外に、名前が横断歩道を渡って駆けてくるのが見えた。 中学のブラウスより、高校のセーラー服のほうがやっぱり似合っているな、などと思いながら、自動ドアをくぐって外へ出る。 「京介っ、ごめん遅くなった」 「いや。ちょうど俺も用事を済ませられたから」 名前の足元を示し俺は言った。 「スニーカー履いてきたのか、偉い」 「新しいローファだと靴擦れしそうだから」 「高校から走るのは初めてだな」 「道順はなんとなく分かるけど、距離はあるよね…」 「荷物持とうか」 「まさか」 どうということのない会話を交わしながら、俺たちは軽い準備運動をする。 コンビニの駐車場で、一緒になって手を大きく広げ、深呼吸をし終えると、 俺は少しかがんで、名前のくちびるに軽くキスした。 真っ赤になった名前が、俺を取り残して走り出す。 ひゅっと息を吸い、俺も負けじと駆け出した。 師事されに来るなら玉狛まで走ってこい。それがレイジさんルールなのだ。 *** ぜえはあと大きく息を切らしながら、川沿いの四角い建物のチャイムを押す。 名前は隣で走っているときから汗を流し頬を上気させてもがいていたが、ついに死にそうな顔で崩れ込んだ。 苦しそうにむせこんでいる。 俺も汗ばむワイシャツをパタパタとさせて、チャイムの応答を待つ。 「…出ないな」 「誰もいないの」 「手が離せないのかもしれん」 俺は扉の取っ手に手をかけ、扉を引いてみる。 その瞬間、重なる破裂音が俺たちを迎えた。 「高校入学、おめでと〜う!」 目の前に、色とりどりのテープが飛び出して広がった。 迅さん、宇佐美先輩、レイジさん、陽太郎と雷神丸。 思いがけない出迎えに、言葉を失う。 「あっはっは、驚いてる」 クラッカーを手にした迅さんが笑った。 すると、迅さんのもう片方の手が差し出される。 その手には、二枚分のフェイスタオルが束ねられていた。 宇佐美さんが、合点がいったという様に表情を明るくさせる。 「迅さん、これが視えてたんだー! 汗だく」 「京介たちが走ってくる未来は確定してたもん。ほんっと真面目だなあ。さすがはレイジさんの弟子」 俺たちはお礼を言ってタオルを受け取り、汗を拭った。 大勢に招かれて居間へ入る。 中心の大きなテーブルにはごちそうが用意されていた。 好物ばかり並べられた数々の料理に見とれていると、 「少し遅れたが入学祝いだ。おめでとう京介、名前」 レイジさんの大きな手のひらが片方ずつ 俺と名前の頭に乗る。 俺たちの頭を申し分ないほど撫で、レイジさんは、一呼吸だけ、ほんのりと微笑んだ。 |