知られざる禁断魔法 4


♡ C l a p ♡


「──お邪魔しますよ」
黒衣こくい様……?」

そう言って入ってきた全身黒ずくめと言っても過言ではない男性を正悟は黒衣と呼んだのだが、この世のものとは思えないほど纏わりつく空気に重圧を与えている。
身長だけで言えば千草もそれなりに高い方ではあるがそういったものは関係がないようで、例え見下ろす形であっても見下ろしてはいけないような自然と頭を下げたくなるといったそんな表現がまさに正解だった。
その表現の通り禅と正悟は緊張が伝わらないように頭を下げていると、二人は次に遅れて入ってきた人間の声を聞くまで頭を上げられずにいたのだが、その声を耳にしたところで何故その人物がここに居るのか理解出来ないといった表情である。
その全貌を見ていた千草とすればどう反応すればいいのか、戸惑ってしまうのは無理もないだろう。

「二人とも、顔を上げなさい」
「リアム様……!?」

黒衣は後から入ってきた男性に道を空けてその場を譲ると後ろに下がり、静かに見守ることにしたようで牽制していた空気を一気に解く。
金髪に碧眼と言った何処を歩いていても目立つであろうその人物は中性的な顔立ちではあるが、禅や正悟とは違った美しさを持っていて、黒衣とは違った意味でこの世のものとは思えない人物であった。
その人物が入ってきてからは少しだけ張り詰めていた空気が落ち着き、呼吸を忘れて息を呑んでいたのを思い出したかのように再び呼吸を始めて時が流れ出した。
二人は口を揃えて名を呼んだリアムという男性に、感謝の意を表しつつも今日来た用件を聞かなくてはならない。
禅と正悟にとって、その用件も容易く想像は出来てしまうがそれでも確認は必要だ。
正悟は心配そうに千草の顔を見ているが千草は未だに状況が飲み込めないので、賢い選択としてはその場でただ口を閉ざして状況を把握することに徹するのみであった。

「本日は何故このような場所へ……?」
「少し状況が変わってね。しばらくの間こちらに用が出来たんだ。なに、彼のことではないよ。それとは別件だ」
「では──」
「だが、折角だから彼に会っておきたくてね。黒衣に探らせた。そうしたらここに居るって言うものだからついでに寄ってみたという訳だ」

リアムが丁寧な口調で禅と会話をしていると、正悟はどうしても言わなければならないと思ったのか、会話の切れ目に声を出して千草のことを話すことにした。
どうしてもこの先も千草と一緒に居たいのであればこの人に頼む以外、他にない。
そうでなくても自分の口から説明しなければならないことは多くあるのだろうと正悟は考えている。

「リアム様……あの……」
「正悟、そんなに心配しなくても大丈夫だ。」
「え……?」
「彼のことは私としても義を欠いた扱いをする気はないからね。さて、天ヶ瀬千草くん。君に何個か質問がしたい──」
「オレに……?」
「だが、今日は顔を見ておきたいと思っただけなんだ。用も控えていてね。悪いけど、今度の日曜に時間を作った。正悟と千草くんにはその時に来て欲しいのだけど、いいかな?」
「必ずお伺いさせていただきます」
「千草くんも大丈夫かな?」
「えっと、はい……」
「それではその日、黒衣をここに迎えに来させるから。楽しみにしているよ、君たちに会えるのを──」

そういうとリアムと黒衣は踵を返して店を出てから車に乗り込みその場を後にする。
二人の気配が無くなるまで重々しい空気が完全に消えることはなく、ようやくいつも通りの空間に戻ったかと思いきや今度は疲労感に似た何かが千草を襲ったのか、不安になり視線をずらして自分の手を見てみるとかなり震えているのが分かる。
そんな千草の姿を黙ったまま見ていると、正悟は改めてこちら側の世界に千草を巻き込んでしまったのではないかということを実感する。
それが自然と表情に現れてしまい正悟は罪悪感と後悔の念に駆られていたのだが、千草はその姿を見て無理矢理にでも自分の震えと不安を誤魔化すように笑い飛ばした。

「さっきの人達、凄かったな!」
「千草……」
「大丈夫だから、先輩もそんな顔しないで!」

笑いながらそう言った千草は、記憶を振り返ってみても先程の二人が凄かったという感情しか湧いてこない。
最初に黒衣の重苦しい空気に当てられ、それからリアムの神々しいまでの雰囲気に何も言えなくなった自分の心に情けなさと悔しさのようなものが心の中で渦巻いていたが、それも笑っているうちに誤魔化しが効くようになってきた。
何より自分の反応で正悟が傷付くのが嫌だった千草は、無理にでも自信を付けて次の日曜日に挑むしかないのだから、今からあの二人の凄さに負ける訳にはいかないと自分を鼓舞するように握り拳を作って震えを止めた。

「そうだ!オレ、今日は追試の結果を報告しに来ただけだから、そろそろ帰るよ」
「うん、分かった……」
「じゃあ先輩、また明日な!」

千草はそういうと帰り支度を始めてその場を後にしようとする。
最後に禅へ挨拶をして店から出ると、その後ろ姿を見て正悟は心配そうに背中を見つめていた。
禅も二人の心配はしつつもそれを口にすることはなかったが、今回の話はいずれ二人に訪れるであろう難題であることには違いないのだろう。
だからこそ二人を見守るしかないこの状況は禅にとっても心配の種でしかなく、この件が無事に解決されることを祈るしかないのが酷くもどかしかった。
それでも大人として、正悟の叔父として、千草をここまで導いた者としても、禅が退く訳にはいかない。
正悟のことを最後まで見届けると決めたあの時からその決心だけは変わらず禅の心に根付いていた。
何があっても正悟だけは守ってみせる──千草を守ることがそれに繋がるのであれば尚更だ。
黒衣とリアムからの支持を得るためには並大抵の決意では厳しいだろうが、禅は信じている。
千草の決意と正悟の決意、それらが交われば大丈夫だと信じたい、信じるしかないのだと今はそう思うしかないが、明日から世界が変わっても二人の想いは変わらずそこにあると信じている。
例え黒衣とリアムの二人が、子供たちの覚悟を試そうとしようとも──。

「本日はよろしかったのですか?」
「黒衣、君には“天ヶ瀬千草”がどう見えた?」
「非常に稀有な存在には違いないようでありました。ただ──」
「ただ?」
「こちらの世界へ足を踏み入れるべき人物かどうかはまた別の話……」
「フフ、そうだね。それは歓談パーティーで明らかにしよう。正悟あの子の隣りに立つに相応しい子かどうか──」
「御意」




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