最強豪傑の禁断魔法 1


♡ C l a p ♡


「そうだ、千草」
「ん?」
「追試頑張ったご褒美の件、何がいいか決めた?」
「あー、アレか」
「うん。なにがいい?」
「うーん、何がいいだろ」
「俺に出来ることなら何でもいいよ」

正直な話、追試までは勉強漬けで考える余裕がなく“ご褒美”などと言われてもそれほど浮ついた心ではいられなかったので、千草はここに来て初めてその件について考えていた。
初めは何も浮かばずにいたのでどうしようかと思ったのだが折角の正悟からの申し出に、千草はご褒美自体を無かったことにするということだけはしたくない。
そして何となく頭に浮かんだ言葉を口にすることにした。

「なら、いつでもいいから先輩と遊びに行きたいな」
「…………」
「せんぱ──」
「いいよ。どこ行く?」

どうするか悩んだ末に言ったお願いだったのだが口にした直後、正悟が口篭ったため無理はさせたくなかったので、すぐさま断りやすい言葉を付け足そうとして口を開くが正悟はそれよりも早く自分から声を出して千草の願いを叶えようとしてくる。

「先輩、無理はしないで」
「え?」
「よく考えたら人混みとか、怖いよな」
「大丈夫……前とは状況も違うから」
「なら、先輩は行きたい所とかない?」
「俺の行きたい場所……?」

正悟は少し考えてから答えを出そうと頭の中で千草と出かけたい場所を思い浮かべてみたのだが、一つだけ思いついたのでそれを口にすることにした。
昔から憧れていたのだが一人では行けずにいたので、今の自分なら千草と一緒であれば可能なのではないかと考えてのことだ。

「映画館に、行ってみたい……」
「映画?」
「うん。何が観たいっていう訳でもないんだけど、面白そうな作品があれば観てみたい」
「いいよ、何でも付き合う」
「でも、そうなると俺のご褒美になっちゃうよな」
「オレは先輩と居られれば、それがご褒美だから」

正悟の願いも叶いつつ、千草の望みも叶うのであれぱこれほど一石二鳥なことはない。
それに映画と言えばデートの中でも間違いないと言われているほどのお勧め先でもある。
正悟にはデートという言葉は伝えなかったが、千草の感覚からすれば十分にデートの条件を満たしていた。
あとはいつ行動に移すかが問題だ。
普段の日に行くのも考えたが、正悟はバイトもしていて委員会にも所属しているため、千草のように帰宅部で委員会にも無所属という訳ではない。
その辺りを悩んでいると、正悟がそれを察したのか気を利かせて遊びに行く日取りを提案してくる。

「今度の日曜日、予定が済んだらそのまま行かない?」
「いいの?」
「うん。平日はなかなか時間がないけど、日曜日なら午後は空くだろうから」

日曜日の予定──それはリアムに言われた通り研究所ラボに行く日ではあるのだが、外でそのような会話も出来ないので差し障りのない単語で会話をしていくことになるが、二人の間柄ならそれだけで十分であった。

「うん、オレもその日は一日空いてるから」
「なら、楽しみにしてる!」

そういうと、二人が会話を終わらせるのを待っていたかのように予鈴が鳴る。
その後はいつも通り授業を受けて、正悟と千草はお互いに用事を済ませていく。
そんな日が二、三日続いた次の日──つまりは目的地である研究所に着いたところから物語は再び動き出す。

「さて、着いたよ」
「いつもありがとう、禅さん」
「ここが、目的地……?」

千草が気にしながら口にしたそこはとあるビルの地下駐車場──そこから更にエレベーターに乗り込んで向かうため、千草は禅と正悟に大人しく付いていくとエレベーターの扉はすぐに開き中に入るとすぐさま扉が閉じる。
中は然程変わったところもないと思っていたが、千草が改めて周りを見渡すと普通のエレベーターと違い行き先を決めるボタンがない。
あるのは非常用ボタンと扉の開閉ボタン、そして謎のタッチパネルがあるだけだ。
禅はパネルの前に立ち手の平を乗せて装置を起動させると、どうやら別の場所にカメラが埋め込まれているようでそこに自身の顔を認証させるように映り込む。

「先輩。禅さん今、何してるの?」
「指紋認証と顔認証と虹彩認証で、それが終わったら動くよ」
「随分と厳重なんだな」
「これでも少ないくらいだよ」
「え、そうなの?」
「ここにも監視カメラが設置されてるし、ここから先はもっと厳重になるよ」
「なんか映画の世界みたいだ」
「みたい、ではなくそうなのかもね」

正悟と会話をしていたと思いきや、手順を踏んで手続きを終わらせた禅が最後に会話へと参加してきた。
するとしばらくしたらエレベーターが動き出し、上階に向かうのかと思っていたが更に地下へと向かい動き出したので、千草は少しだけ驚いていた。
エレベーターは少し動いただけで目的地へと着いたようで、着いた時に鳴る音と同時に扉が開きエレベーターから出ると、そこには事務所のような場所が広がっていた。
そこから先が長かった──持ち物検査や身体検査、更には指紋認証や顔認証、虹彩認証をさせられた上で研究所の入口へと通してもらう。
二人はいつものことだと何も言わなかったが、千草の場合は初めてということもあり情報登録から始まったので余計に時間がかかってしまい、最初は本人も緊張していたのだが気付けばそれも解れておりいつも通りの千草になっていた。

「千草、お疲れ様」
「うん。ありがとう、先輩」
「さて、これから目的地に向かうので千草くんも付いてきてくれ」
「あ、はい!」
「あと、分かれて検査になると思うから、スタッフの指示には従ってね」
「分かりました……!」

そういうと三人は開かれた入口に向かい、待合室のような場所までは一緒に行動することになる。
そして二人は禅に荷物を預けそれを受け取った禅は待合室でそのまま待機することになり、正悟と千草はスタッフに言われるがまま、個々に小さな更衣室で検査着に着替えを済ませ、通路に従いながら歩くと、その先で滅菌消毒を済ませてから一度正悟と合流することになる。

「エレベーターで先輩が言ってたことの意味が分かった気がする」
「ごめんな、付き合わせちゃって……」
「いや、貴重な経験が出来て良かったと思ってる!」
「もしかして、気を遣ってる?」
「そんなことない!むしろやっと先輩の隣りに立てた気がして嬉しいくらいで──」
「フフッ、ありがとう。千草」
「…………うん」

少しだけ時間があったので備え付けられていた椅子に座り会話をしていたのだが、正悟に分かってもらうために一生懸命、身振り手振りで説明していたのが恥ずかしくなってしまい、千草は顔を赤らめながらも会話を終える。
しばらくすると奥から二人を呼ぶ声が聞こえたため、行ってみると一通りの検査装置が設置されているのが視界に入る。
案の定、それらを使って検査を行い結果が出るまでは再度待ち時間となったが、それほど長く待たされるという感覚には陥らなかった。
正悟が診察室に呼ばれたのを確認すると千草は一人で居る時間、ここまでのことを思い返していたが入学式の日やその後のこと、それら全てを考えてもこんな風になるとは思いもしなかった。
正悟に救ってもらった運命だ──千草はどんなに時間がかかっても恩返しをすると決めている。
そんな風に思い出に耽っていると、気が付けば診察室から正悟が出てきたので、千草は声をかけると数分もしないうちに自分も呼び出されて同じ診察室へと入ることになった。

「じゃ、行ってくる」
「うん。ここで待ってるから──」

千草は移動して扉をノックすると中から入る許しを得たので扉を開けて足を踏み入れると、そこは普通の病院と何ら変わりのない風景だ。
机の上にはパソコンやカルテが置かれ、そこの前に座っているのが先生なのだろう。
この場合、研究医と言えばいいのか医者と言えばいいのか分からないが、千草にしてみれば先生と言うのが妥当な呼び名であった。

「お前が天ヶ瀬千草、だな」
「あ、はい!」
「正悟のことは正直どう思っている?」
「え?」

思わず聞き返してしまう──初めての会話が自己紹介ではなく、いきなり正悟のことを聞かれたので吃驚してしまったというのが一番大きいのだろう。
しかし千草はそのようなことで、めげることはない。
要求に対して率直な意見を述べるために口を開き、望まれているかは分からなかったが、千草は今抱いている正悟への感情をそのまま伝える。

「先輩はオレの運命の人です!」

だが色々なことを一度に考えて想いを口にしようとした途端、簡略化し過ぎてしまい情熱的な言い方になってしまう。
とはいえそれを真剣に言えて恥じることもなく受け入れている千草に、余計に面白さを感じたのか千草の前にいる者は腹を抱えて笑い出すことになり、同時にそれは診察室の扉を越えて聞こえたのだが、外で待つ正悟には細かい話が聞こえた訳ではないので、それを聞いた正悟は訳も分からず疑問の声を心で浮かべていた。
それほどの声量ではあったのだが千草は怒ることなく、戸惑いながらもその者の話を聞くことにして耳を傾ける。

「いやー悪い悪い!まさかこんな率直な答えが帰って来るとは思わなくてな──」
「あ、あの……」
「俺は黒須白悠くろすしゆう──能力者にして医者だ」

黒須白悠と返事をしてきたその医者を見て千草は気さくな人だと認識したようで、笑い飛ばされてはしまったが分かってくれればそれでいいと思い、先程の言葉を訂正しようとは思わなかった。
運命の人──まさしくその通りではあるのだが、大抵の人間が聞けば大袈裟だと思ったり、恥ずかしい言葉と認識するのは仕方のないことなのかもしれない。
とはいえ千草としてみれば正悟はそれだけ大切な存在で、大が付くほどの好意を寄せている人間だ。
白悠はひとしきり笑ったところで千草に向き合うと、大事な話をする姿勢に入り、表情も少しだけ真剣なものとなった。

「で、簡単に色々と調べたんだがな──お前には特別な血が流れているかもしれん」
「血……?」
「誤解のないように言っておくが、一般的な血液検査の結果は健康体そのものだ。だが、それとは別に俺が視るんだ、この眼でな──」

白悠はカルテを見ながらそういうと、誤解がないように続けて千草へと話しかけて説明していく。
視線を交えて話をしていると、白悠の瞳が特別なことに気が付いた──否、気が付いたというよりも感じたと言った方がいいだろう。
正悟に出会ってからというもの、千草が能力者に感じる直感的な感覚は日に日に鋭くなっていて、その者に宿る雰囲気が独特なものだと分かるようになっていた。
それは本人が意図しているのか不明だが、確実に一歩一歩正悟達の世界に足を踏み入れている証でもある。

「──お前から感じるものは特別なものだ。簡単な検査結果でも正悟との相性はかなり良い。俺が今まで視てきた者と比べてもトップクラスだ。それこそ、禅にも引けを取らないだろう」
「オレが……?」
「正直、赤の他人でここまでの相性を視たことはないし、有り得ないとも思っている」

そこまで言うと、白悠らは手元のカルテを慣れた手つきで捲りながら千草へと話を続けていく。
白悠もあらゆる方面から報告は受けていたので千草が不確定要素なのは知っていた。
しかし、自分の能力で視た時に感じた“異常”さは、話に聞いていた情報とはどれも一致することはなかった。
それほどまでに正悟の能力に抗体がある──そういう結論であった。

「有り得ないとは言ったが、検査結果が全て物語っている。勿論、今後とも研究は進めていくし、定期的にお前にもここに足を運んでもらいたい」
「オレもですか?」
「正悟を呪われた運命から救いたければ、な」
「そういうことだったら、いつでも来ます」
「フッ、そういう答えをすぐに出せるなら少しは安心か……よし、これからいくつか質問をしていくから答えてくれ──」

白悠はそういうと今後必要となるデータを集めるためにも千草へと軽く問診をしていくことにする。
その内容をパソコンに向かって打ち込んでいくと、時間が少しずつ過ぎていき、数十分は会話していただろうか──千草が真面目に応答したお陰で、診察は早めに終わった。
それが終わると千草と正悟は晴れて自由の身となる。
千草は先程の待合室へと足を運ぶと、嬉しそうな顔をして出迎えてくれる正悟が居た。
その顔を見ただけで、千草は今日ここに来た意味を感じられた気がしている。
自分の存在が誰かの助けになるとは思いもしなかったが、それが正悟の助けになるのなら一番の幸せだと、千草はそう考えていた。




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