最強豪傑の禁断魔法 2


♡ C l a p ♡


「あ、千草。診察終わった?」
「うん、バッチリ!」
「なら、千草も着替えてくるといいよ」

千草が診察室から出ると先に診察を終えていた正悟は既に検査着の姿ではなく、私服姿に変わっていた。
相変わらず私服姿が新鮮で、千草としては見ていて魅力的だと感じてしまう。
とはいえ、ずっと見ている訳にはいかないので、千草も自分の服に着替えるために更衣室へと戻り、しばらくすると明るくいつも通りの千草の姿がそこにはあった。

「先輩、お待たせ!」
「お疲れ様、千草」

着替え終えた千草が出てきたので二人は禅の居る待合室まで戻るために、会話をしながらゆっくりと歩き出す。
雑談の内容としては専ら今日の出来事──ほぼ白悠の話ばかりだった。
それほどまでに白悠の存在が衝撃的であったのか、二人は楽しそうに共通の話で盛り上がる。

「黒須先生、面白い人だったでしょ」
「うん、なんか先生っぽくない人だった」
「フフッ、確かに」

そんな話をしているとあっという間に待合室の前まで着いて、二人は遠目から白悠と禅が会話しているところを目撃する。
何を話しているかはっきりと聞こえて来なかったが、楽しそうに話しているのだけは表情を見て取れたため二人は邪魔をしては悪いと思いつつも、禅も二人が来たのに気付いて視線を向けてきたので、そのままの勢いで待合室へと向かい禅へと挨拶をして話に割って入った。

「禅さん、終わったよ!」
「やぁ、正悟。何事も無かったかい?」
「うん!いつも通りだし、大丈夫だよ」
「千草くんもお疲れ様、疲れただろう?」
「いえ、大丈夫です!」

力強く返事をする千草に禅は微笑みで返すと、白悠は千草を見ながら面白そうに先程の診察時を思い出して再度笑う。
千草の純粋さに耐えきれずの笑いなのだろう──千草を見ていると、白悠からすればあまりにも純粋過ぎる。
それが白悠にとってはむず痒いといった感情になって笑いに変えているのかもしれない。

「こら、白悠。千草くんで面白がらないように」
「分かった、分かった。ククッ」

それを見た禅がそれとなく態度を注意するのだが、白悠はあまり気にしていないようであった。
千草からしてみたらあまりにも理不尽な話だろうに、それでも気にせずに白悠と接している。
禅はそんな二人を見て、どちらが大人なのか──そんな風に思ってしまう。

「さて、そろそろ仕事に戻らなきゃならんからな。俺は先に失礼するぞ」
「あの!今日はありがとうございました!」
「お前は本当に──いや、正悟コイツのこと、頼んだぞ」
「はい!」

白悠は正悟の頭を撫でるように軽く二回叩くと、千草に向かってそう言い放つ。
千草も正悟との関係性を応援してもらえてる気がして嬉しくなり、元気よく返事をすると、それを見ていた禅が次に口を開く。

「じゃあ、二人とも帰ろうか」

三人は白悠に向かって挨拶をしてからその場を離れることにして、帰りも変わらず地下駐車場に繋がるエレベーターに乗り込むと、禅の車で来た道を戻っていきそのまま三人で食事を済ませることになり、千草は遠慮したのだが、この後の予定も話していたため禅には悪いと思いながらも甘えさせてもらい食事を奢ってもらうことに
した。
そして、三人で禅の行き付けの店に向かうと千草は礼儀正しく食事を済ませて禅へと礼を言う。

「何から何までありがとうございます!」
「今日はこちら側の用事だし、気を遣わないでいいんだよ?」
「いえ、それでも美味しいご飯をご馳走してもらいましたから……」
「君は本当にいい子だね。正悟のことも任せて大丈夫だろう」
「ちょ、禅さんってば何言って──」

禅の言葉に正悟はつい口を挟んでしまうのだが、親心としては友達がしっかりしていた方が安心なのだろう。
特に正悟にとっては歳の近い同性の友達は初めてだ。
だからこそ、二人の動向は気にもなるし心配にもなる。
本来ならばそのようなことを心配しないでも済んだはずなのに、その心配をしなくてはならない状況なのは正悟自身もよく分かっていた。
だからこそ、照れるだけで反抗などすることもなく焦って口を挟むだけで留まり、バツが悪そうにむくれた表情をするのだろう。
禅はそんな甥を見ていて親心に火が付いたのか、二人の背中を押すのには十分過ぎるのか、その場で解散でもいいものの映画館までは送ることにした。

「ほら、午後は二人で楽しむんだろう?」
「う、うん……」
「映画館までは送って行くから、二人とも乗りなさい」

二人はそういうと後部座席に乗り込んで映画館まで乗せてもらい、午後一番の上映には間に合いそうだったので、二人で相談して決めた映画を観ることになり二人分のチケットを購入して入場する。
人生で初めての映画館に正悟は少し緊張しつつもその光景がとても印象深く残ったのか、映画自体が終わった後も少しばかり興奮気味に見えたが、千草は正悟がそれほどまでに気に入ってくれて嬉しいという感情に満たされていた。

「映画館で観る映画って本当に迫力あって面白かった!」
「気に入ってもらえて嬉しいよ」
「うん、凄く楽しかった!」
「先輩が良ければまた来たいな」
「千草となら……来ても、いいかな」
「そっか……!」

正悟はそういうと千草にしか向けない少し照れ気味な笑みでそう告げる。
それを見て千草は独占欲が満たされるような感覚に陥り、一緒になって照れそうになるのを何とか悟られないように微笑みながら返事をして誤魔化す。
それからも二人は街中をブラブラと散歩をするように歩いていると、路上販売しているアイス屋を見つけて食べようという話になり、最後尾に並ぶことにした。
と言っても、然程人が並んでいなかったのですぐに順番は回ってきそうではあったが、待っている間も飽きさせないために正悟に話しかけてその時間を満喫していると、あと少しで自分たちの順番という時であったにも関わらず、そういう時に限ってトラブルというのは付き纏ってしまう。
少し前に並んで買っていた親子の子供の方が、母親が少し目を離した途端に走り出し転んでしまう。
そしてアイスと共に見事、正悟の方へと倒れ込むと着込んでいた上着にアイスが付いてしまったのだが、そこでも正悟はすぐに子供の心配をし始める。

「ぅう……うわぁああん!」
「大丈夫?怪我、してない?」
「っひく……ぅ、うん……お兄ちゃん、ごめんなさい……」
「俺は大丈夫だから──」
「すみませんっ!この子ったら急に走り出して……」

正悟がそこまで言うと、母親らしき人が駆け寄ってきて謝罪をしながら子供に話しかける。
正悟は親子へ気にしないよう伝えるのだが、そういう訳にもいかず母親が服のクリーニング代を払おうとし始めるので正悟は何とか落ち着いてもらうために優しく話し始めた。

「あの、本当に気にしないでください」
「けど、お洋服が……」
「大丈夫です。端の方に、少し付いただけですから」
「ですが……そうだ!せめてアイスでお二人の分、お詫びさせてください!」
「いや、でも……」
「オレも大丈夫ですから」

謝罪を続けるその親子に二人は困惑しながら応対していたのだが、相手の気持ちを考えると流石にこのままという訳にもいかないと目配りをしながら意思疎通を試みると、正悟の想いを理解したのか千草も観念したようにアイスを奢ってもらうことにする。
とはいえ子供の手前、二人だけ食べるのが気になったのか、正悟は子供にも買うのを前提に奢られるのを承諾すると母親も安心したようにそれに応じてくれたので、正悟もどこか安堵しながら子供へと話しかける。

「一緒にアイス選ぼうか!」
「……うん!」

それを見ていた千草は、正悟の優しさに触れて確実に惹かれているのを感じていた。
子供も自然と笑顔になり、正悟も楽しそうにアイスを選ぶ姿を見て自信を持って正悟を慕うことが出来る──そう思いながら千草は少し後ろに立っていると、そんな千草のことも忘れずに正悟は意識して話かけてくれる。

「千草は何にする?」
「先輩は?」
「俺はバニラにする」
「なら、オレはチョコレート」
「僕はミックスにするんだ〜」

三人はそう言ってアイスを選び、近くにあるベンチで美味しそうに食べながら話していると、次第に食べ終わりその親子とも別れの時が来る。
子供は名残惜しそうに正悟と会話を終えると、母親と一緒に立ち上がり、改めて謝罪をしてから立ち去ろうとしたのでそれに応対しながら正悟は優しげに微笑んだ。

「お兄ちゃん、さっきはごめんなさい!」
「大丈夫。今度から、怪我しないように気を付けるんだよ?」
「うん!」
「本当にご迷惑おかけしました……!」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「じゃあね、お兄ちゃん!アイス一緒に選んでくれてありがとう〜!」

そう言って母親はお辞儀をしながら子供の手を引き、子供も手を振ってこちらに別れの挨拶をしてきたので、正悟は子供に対して手を振ると、隣りにいた千草が代わりに母親へ会釈をしながら礼をする。
すると、途端に二人だけの空間となり静けさが増していくのだが、立ち上がって見送っていた二人は改めて座り直すと、千草は心配になっていることを正悟に聞いてみた。

「先輩……本当に服、大丈夫?」
「うん。高い服じゃないし、ちゃんと拭いたから大丈夫」
「でも上着脱いだら……その……」
「何か、変……?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど──」

羽織っていた上着を脱いでいる正悟を見て千草は少しだけ心配になってしまう。
これからの季節、肌を見せることなど日常的にありふれたことになるのだが、それでも今この瞬間正悟の肌を晒しておくのが千草としては少しだけ心配であった。
ただでさえ、一緒に歩いていて周囲の視線が正悟に向けられているのを感じて聞き耳を立てていた時も、正悟の容姿を褒めて狙う言動がどうしても気になってしまったのに、正悟が強くて抵抗出来たとしても万が一のことがあり誰かに誘われ路地裏にでも連れ込まれたらと思うと、不安で居ても立ってもいられないのだから千草としては少しでも露出を控えてほしいと考え、余計な気遣いだと思いつつも自分の羽織っていた上着を着せることにした。

「先輩、あの……これ着て欲しいんだけど」
「えっと……?」
「少し目のやり場に困るというか──いや、その!ごめん、別に変な意味じゃなくて!」
「フフッ、ごめん。心配してくれてるんだよな」
「…………うん」
「ありがと」

正悟はそう言うと、千草から受けとった上着を羽織り照れくさそうな表情で袖に腕を通してみる。
すると普段あまり意識したことはなかったのだが千草の服はやや大きく、そのせいか身体のラインが見えなくなり一見少女と勘違いされてしまう可能性が生まれたが、それでも無防備に肌を晒すよりかは幾分か増しに思えた。

「動きづらくない?」
「大丈夫、激しい動きする訳じゃないから」
「もうこんな時間か」
「うん」
「あんまり遅くなると危ないし、帰ろうか」
「そう、だな……」

千草に帰ろうと言われ、正悟は少しばかり名残惜しい気持ちになる。
女々しいと思いながらも、もう少しだけそばに居たい──そんな風に考えてしまうのだがそれは身勝手な考えなのだろうかと、そんな風に思っていると千草は察したように正悟の手を取り、送る形で正悟の家を目指そうとする。

「千草の家、反対だろ?」
「オレがもう少し先輩と居たいから、送らせて?」
「…………うん」

二人は駅前の喧騒の中、はぐれないように正悟はそのまま手を引かれて歩くことにした。
自然と手を繋ぐことになり、最初のうちは戸惑いもあったが千草のリードが上手いお陰か、恥ずかしさも然程感じなくて済む。
そうして二人は正悟の自宅へ向かって歩き出すと、道中では二人にとって新たな出会いが待ち受ける場面への一歩を踏み出す時が訪れる。
それが二人にとって、どれほどの運命の歯車を動かしていくのかは分からない──しかし、それが例え不利に働いたとしても、今日の出来事を二人は決して忘れないだろう。
二人で過ごした大切な時間、心が弾んだ瞬間、そのどちらも今後の二人にとっては大事な経験となって将来の時を育むのだから──。




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