森の奥、ほの暗い空間にかすかに灯る淡い光に照らされる、蔦にがんじがらめにされた私の、私だけの部屋。ここに積み上げられた本の数は、境鳥様に頂いた魔法で、この力で、私のような不幸な人間を増やさないために、私が振り下ろしてきた私なりの正義の数。大切な記憶を削ってしまうことは申し訳ないと思う。それでもこれは救済のための行動である。人間は遠い存在に憧れたがる。その絶大な力に溺れたがる。けれどそこで生まれる後悔は底のない沼のように深く、果てしない。だから私は、最後の救いの手を差し伸べる。
ぽつりと置かれた椅子から埃を落として座る。外の音も、光も、何も届かない、無の空間。そびえ立つ本の山から一つ抜き取り、背表紙を優しく撫ぜる。この本の中に押し込められた記憶の持ち主は幸せになれただろうか。
長い間こうしてきたせいか少しずつ麻痺してきているが、それでも未だに、罪悪感と、後悔と、私を見る悲しそうな、つらそうな表情が、胸を締め付け、背負うものの多さに押しつぶされてしまいそうになる。そうしてその度に彼はどう思うだろうか、と答えの見つかりもしない疑問が浮かぶのだ。醜いと思うだろうか。哀れむだろうか。緑の目を捨て、まるで血の色のようなこの目で、多くの人間達の記憶を奪っていく私を見て、何を思うだろう。自分の正義だけを胸に生きる私を見て、それでもなお、あの名前を、美しい人だと、呼んでくれるのだろうか。
まぶたの裏には赤と青の美しい翼が、すぐそこにある。あのとき、人間として生きていたあの時に付箋を閉じこんだかのように、目を閉じれば、色鮮やかなまま、確かな形を保ったまま、そこにある。
そっと本を戻すと、ヒールが土に沈み込む音が聞こえた。きっとメランナだろう。すっと立ち上がり、入って来られるよりも先に部屋から出る。境鳥様が私を探していたというメランナに短く返事をして歩き出す。
私の正義は間違ったものじゃない。絶対に。だから、もう一度でいいから、記憶の底で笑いかける彼に会いたい。あの鮮やかな羽根を、私を抱きしめる彼の肩越しに見たい。そうすれば私を苛む感情たちなんてどこかにいってしまうのに。