ヨモとイッサ
「仕事の邪魔よ、早く行って」


突き放すように言えば、私と同じ色の目が鋭くこちらを射抜くのを感じた。何をしたって変わらない結末なのよ、これが私たちの望んで来た世界なの。わたくしたちのような人間が必要のない世界。それこそが『平和』なのよ。今日でおしまいなの分かってるくせに。あがいたって変わらないこと分かってるくせに。13は戦のことしか頭にないけどそれほど愚鈍じゃあない。自分たちが必要とされなくなることを理解しているからこそ混乱している。それでもこの戦争を終わらせなくちゃいけない。それも分かってるくせに。


「お前がそうやってメソメソしてると情報部隊にまで影響があるの。さっさと配置につきなさい」


苛立ちを隠そうともせずわたくしの襟を掴み上げようとした手を短鞭ではたき落とす。舌打ちをしてからようやく帰っていったがあの様子だと手当たり次第に八つ当たりするだろう。それも含めて計算し直さなきゃいけない。本当にどうしようもない子。昔から、変わらない。自分の思う通りにならないと暴れて、そのせいで、


「ヨモ様、顔色が……」


その声にはっと顔をあげた。わたくしらしくもない。心配そうに眉を下げる部下からふいと顔をそらして、報告を聞き、指示だけ簡潔に伝える。その部下は何か言いたそうな顔を見せたがそのまま頭を下げて出て行った。どうしてこんなときに思い出すのだろう。遠い昔に感じるほどに抑え込んできたあの日々を。

ぐっと握りしめた胸もとの、この布の壁の奥には忌々しい印。掻きむしっても消えない、呪縛のような、烙印。真っ白な部屋でyi-400だなんて人間とは思えない名前を与えられて、身体の中に色々なものが入ってくる感覚、吐き気も動機も全部我慢して、ついに人間ではなくなる瞬間。押し込めていただけで、思い返せば鮮明に蘇る。怖くて、悲しくて、死んでしまいたいのに勇気はでなくて、それでも私と同じ目の色をした仲間を、今では家族と呼べるくらいの存在がそこにいたから耐えてこられた、逃げてこられた。

そうしてこの帝都に来て、二人で約束した。本当の名前は言わないこと、誰にも昔のことは話さないこと、偉くなって周りを見返すこと。誰からも傷つけられない位置に立とうと。もう何年もたっているのに、お互いに馬鹿みたいに素直に守ってる。それがお互いのためなのか、自分のためなのか、それはもう分からないけど、もしも平和な世界が訪れたならその時は、あの白くも暗い空間から救ってくれた13を救い出す。そのための地位であり、そのための権力だ。

扉を開けて、一斉にこちらを向く数多の目に怖じけづくことなく声を張る。


「きっと、これで最後よ。これで終わり、いいえ、終わらせるのよ、全てを」




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