片手の指を相手のそれに絡めて、もう片手の指を首元に滑らせる。視界の端に見える唇が弧を描いて、相手の手がゆっくりと腹部で蠢く。お互いに小さく笑う声は聞こえるけれど微笑む唇から吐息が漏れることはない。球体の関節がきしんで、硬い音が鳴る。硬質な手は汗ばむことを知らない。どれだけ肌に自分の身体を押し付けても柔く沈んでいくことはない。体温のない首元に顔を押し付け、すっと息を吸い込んでも脳を麻痺させるほどくらくらくる甘さなどなく、自分たちの素材の匂いがからっぽの頭の中をぐるぐると回る。
こんなことをしても意味がないことは分かってるし、女同士だとかそんなこと以前に人形である自分たちに生産性なんてあるはずもない。それでも人間が愛する者とまぐわうように、恋しい人と一つになりたがるように、とはいえ出来ないことは分かっているけれど、私たちも私たちなりにパーソナルエリアなんて呼ばれる距離感をなくしてしまいたかった。吐いた言葉がダイレクトに届くほど、伸びた睫毛の根元が見えるほど、隠しごとなんてできないくらいに、誰よりもずっと近くにいることを証明したかった。
「エメリン、考えごと?」
とん、と眉間に指を置かれて、はっと力を抜く。少し不満げなエメリナのその手を掴んで手首に口付ける。小さくリップノイズを立てて離すと、エメリナは嬉しそうにそこへと重ねるようにキスをして「間接キスね」と笑った。その悪戯が成功した少女のような表情が愛しくて、エメリナの腹部へと顔を押し付けた。エメリナは特に咎めることもなく、私の短い髪を丁寧に撫でる。こんなにも近いのに、こんなにも愛しいのに、私たちは二人で一つであって、一つになってしまうことはできない。
「エメリナ、大好き」
「私もエメリンのことが大好きよ」
「でもあたしたちは一つになれない」
「一つになったらもう会えないわ」
「うん、そうだね」
「私は独りになるのも、エメリンを独りにするのも嫌よ」
「あたしも嫌だな」
魂が宿ってから人間のようにふるまってきた。本を読んで、色々な人を観察して、レオンから話を聞いて、たくさん学んだ。きっとこの人間とはかけ離れた身体さえ見られない限りは誰も疑いすらしないだろう。そうして人間の中に溶け込んでいるのに、人間みたいに誰かを想う気持ちがあるのに、こんなにも苦しいのに、私たちは人間じゃないから、愛しても愛されてもその愛の果てを見ることはできない。きっと悲しいんだと思う。つらいんだと思う。それでも涙は出ないし、胸が痛くなることもない。こんな想い知りたくなかった。こんな想い気付きたくなかった。どうして一緒にいたいだけなのに、たったそれだけの願いが叶わないんだろう。人間の真似事でしか、それも不完全で虚しい行為をすることでしか確かめられない程度に脆い愛なのに、深く根付いて消えてくれない。
レオンたちもこんな思いをするのだろうか。愛しくて、悲しくて、つらくなる日々なんてあるのだろうか。知らないだけで似たことを経験しているのだろうか。それならこの愛の手折りかたを教えてほしい。
両手でぐっとエメリナの顔を引き寄せる。少し体を起こせば青白い唇に自分の唇を重ねることだってできる。エメリナの目には自分がいる、自分だけがいる。全く同じ顔なのに、全部パーツは一緒なのに、どうしたって、どうしても、私たちは一緒になれない。
「好きだよ、エメリナ」
「私も好きよ、エメリン」
エメリナの優しい笑顔がいつもよりずっと近くにあるのに、いつもよりずっと遠く感じた。