私の願いがついに実り、ようやく現れた兄は兄ではなかった。私が求めていたのは、こんな、こんなひとじゃない。あの美しい羽根も、お揃いの髪色も、すらりとした長身も、なにもない。それでも、姿形は違えど兄なのだと自分に言い聞かせて、下手くそな笑顔を浮かべながら震える声で「にいさま」と呼びかける。ゆっくりと振り向いたそのひとは私に「初めまして」と確かな声で言い放つ。その声もけして兄様のものではなくて、私の唇から零れ落ちた小さな「はじめまして」という言葉は教会の美しいステンドグラスに吸い込まれたように情けなく消えていった。
兄様とは何もが違うそのひとは、けして兄様に劣る容姿というわけでもなく、兄様ほどの長身ではないとはいえ世間一般からすれば高めで、一つひとつの所作は美しく、先ほどの声と優しい笑みから冷たい性格というわけでもなさそうで、まるで最初からここが彼の教会だと思えるほどに溶け込んでいて、当たり前のように彼がこの廃れた教会に馴染んでいて、悲しかった。涙で揺れる視界で彼のことをとらえると、もう兄様は帰ってこないんだって、薄々感づいていたことを現実として突きつけられる。
本当は兄様が消えた日から分かっていた。もう戻らないことを。それでも奇跡を信じたかった。私と兄様が会えた日のような奇跡がもう一度起きて、また変わらぬ日々をおくれることを。微睡みに冷たい水が溢れたような、無理矢理とはいえ確かに覚醒した頭は、兄様が再びここに立つという夢をじわりじわりと蝕んでゆく。重くのしかかる現実についに耐えきれなくなった私は俯く。乾いた唇を濡らした涙が落ちて、埃の被った床に叩きつけられる。けれど私の涙は床に染みを作ることはなく、すっと消えてしまう。
「うそよ」
分かっていてもその夢だけはなくしてしまいたくなくて必死に否定の言葉を吐くのに、私に乗せられた手が、慰めるようにベールの上から頭を撫でる手が、ささやかな幻想すら打ち砕いてしまう。優しさなんていらない、慰めなんていらない、私が欲しいのはあの日のような時間だけで、他のものなんていらないの。お酒を飲んでも賭け事をしてもぽっかりと空いた穴が満たされやしなかったように、現れた彼を前にしても虚無感に苛まれるだけだった。それでも未だ私を撫で続ける手を払うことができない。兄様じゃなくても、誰かに必要とされて、私に望まれて生まれた存在なのだと思うと、ただ自分の手のひらを握り込んで嗚咽するしかなかった。