レオンに恋する女の話
彼は、猫のように気まぐれで、炎のように情熱的で、水のように形がなく、鏡のように全てを暴いてしまう、そうして不思議な世界へと私を導き、夢のようなひと時を刻んでは消えてゆくお方でした。儚さと、美しさと、どこか妖しい輝きを兼ね揃えたお方でした。

出会いはといえば偶然街で出会ったわけでもなく、旧くからの友人というわけでもなく、それはそれは唐突なもので、誰もが寝静まった真夜中、眠れずにバルコニーから夜の街を眺めていた私の目の前に突然星屑を溶かした夜空を背負った彼が現れたのです。

彼の柔らかく丸まった青い髪を風が撫ぜ、私に気がつくとふっと微笑み、その光景はまるでおとぎ話の中から王子様が迎えに来たのではないかと思うくらいに幻想的でした。私は何度も何度も瞬きを繰り返しては、彼の精巧な人形のように美しいかんばせを見つめることしか出来ませんでした。
そんな私を見て、彼はいたずらっ子のように微笑み、「お父様とお母様には内緒だよ」と私の鼻に小さくキスを落として、桃色の小さな可愛らしい花を握らせました。そうしてまたねとつぶやくように告げると、音もなく闇夜に紛れていってしまい、それからというもの暫く訪れることはありませんでした。
けれど私の胸の奥底に宿った小さな恋心は、会いたい、会いたい、とずっとくすぶっておりました。

そんな私に、ついに、彼の微笑みを見る機会が再び巡ってまいりました。
あの日のように夜を背負った彼が、私の部屋のバルコニーに立っていたのです。それに気がついた私は部屋から転げるようにバルコニーに飛び出て、ぎゅっと彼の腕を両手で掴みました。どこにもいってしまわないように。そんな私の想いが通じたのか、彼はそっと私の手を外し、その手を包み込むように握りしめてくださいました。

久しぶり、と彼はこぼすように言い、そんな彼の声があまりに儚く、消えてなくなってしまいそうで、私は彼を繋ぎ止めるかのように必死に答えました。彼が来なくてさみしかったことから、あの花を押し花にしていつも持ち歩いていることまで、すべて。
全てを伝え終わったあと、彼は嬉しそうに頷いては微笑み、私の唇に唇を押し付けました。突然ではありましたが嫌悪感などなく、ふわふわと力の抜けてゆく優しいキスはまるで魔法のようでした。

しかしそこからの記憶はなく、気づいた時には私はベッドで眠り、バルコニーには誰もいませんでした。夢かと思ったもののバルコニーには初めてあった時にもらったサクラソウが横たわっており、それを抱きしめて私はまた、夜のバルコニーで想いを馳せました。




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