望まれていた生ではなかった。気分屋の一死神と、その強さに惹かれただけの一悪魔が数刻の過ちを犯して出来た子供だった。それでも命の宿った身体は生きたがって、あたしを拒否する母親を、小さく喘ぐ生命の種を潰そうとする母胎を食い破った。そうして立った世界にはあたしを拒絶する目と、あたしへの否定だけが渦巻いて、悪意の蔓延るこの世界で、あたしは誰からも、そして何も教えられないまま、その悪意を弾く方法を見出した。
そうしてあたしを取り巻く嫌悪を消し去った世界に残ったのは、あたしから離れていく周りの同族たちが作る孤独と、あたしのこの強さに対しての憧れが少しと、虚しさだけだった。正しい生き方もわからない、自分のことも知らない、名前もない、生きたいと思うだけなのに、それすら押さえつけられて、息をすることすら苦しい。それでもあたしがここにあることを証明したくて、あたしは小さく、ちいさく、声にならない声をあげた。
そうしてだんだん生きることの意味を見失って、あんなにも必死にしがみついていた生への執着心も薄れたとき、笑顔を貼り付けて優雅に空を泳ぐ天使を見つけた。あたしはこうも上手く生きられないのにその天使は幸せそうで、それが憎らしくて、悔しくて、あたしは自分の得物を握りしめて、ゆっくりと近寄り、その桃色へと振りかぶった。その瞬間、突然あたしとその天使の間に毒々しい色の花が咲いて、その花があたしの白銀を飲み込む。咄嗟に引こうとするもその花の力が思ったよりも強く、あたしが離れるよりも天使が振り向く方が早かった。
「ご用なら正面からにしてくださらない?」
先ほどの温厚な表情はなく、冷めた二つの瞳にあたしが映る。美しい部類に入る顔立ちをしているにも関わらず、瞳だけはまるで蛇の目を埋め込んだようで、その容姿に馴染んではいなかった。そんなことを考えられるようになるほどいつの間にかあたしの頭は冴え渡って、この瞳を潰したいと、この天使の羽根をもいで堕としてしまいたいと、吐く息は熱く、興奮しきっていた。あたしの攻撃を止めて、なおかつ物怖じしないなんて初めてで、根拠はないけどきっと楽しめると思った。
「あ、はは……ははは!お前凄く面白いな!ぞくぞくする!」
「マナーだけじゃなく空気を読むということも知らないのね。私、いま、苛立ってますのよ」
吐き捨てるようにそう言ってあたしを睨みつけた天使に向かって、花の中から引き摺り出したナイフを振るう。天使はそれをするりと避けて、あたしに蔦を伸ばす。そう考えるうちにすでに蔦は頬をかすって、どろりとした液体が頬を伝って顎から滴り落ちる。頬に手を滑らせて、ここで初めて自分の身体の中を巡るものの色を知った。それがたまらなく嬉しくて、この天使の強さに震えるくらいの悦びを感じて、何度も何度も白銀を振るった。