ふ、と息を吐くと淡い白がぐるりと渦巻いてから溶けていった。包み込むような緑はいつの間にか燃えるような赤へ変わり、空が遠く、高くなった。祠に腰かけて美しい大空を見上げながら扇を振り上げれば、青い舞台に紅葉が踊り、その素晴らしいコントラストに感嘆を息に乗せて吐き出した。
「わたくしは、この一瞬の美を愛おしく思います」
音もなく後ろに佇むリンドウに対して言葉を投げかけてみても、返ってきたのは風の柔らかい音と、紅葉が地面に降り立つ音だけだった。それでもリンドウがこの景色を見ていることは分かっていたからこそそのまま言葉を続ける。
「わたくしには人間たちよりも長い年月を生きるお前たちと比べても、先が見えないほどの時間があります。だからこそ、散る瞬間の儚さこそ、心の中で生き続けるその一瞬こそが、完全なる美であり永遠なる生だと思うのです」
「……そうですね」
「ええ、この美しさはわたくしには手に入れられません」
一枚掴んだ紅葉は私が作り出したものではない風に乗って、遠くへと消えていった。それを見届けて、今度は風が起きないようにゆっくりと扇を降ろす。私は何を言うでもなく空を見つめ、リンドウは何を言うわけでもなくただ静かに後ろに立っている。いくら何千という年と超えて生きていようと相手が何を考えているかなんて分かるはずなどなく、リンドウが何を考えてどうしてここへきたのかも知らないまま、何か言いたいことがあるのかどうかすら分からないまま時が過ぎてゆく。
「境鳥さまは、」
静寂を破ったのは今にも消え入りそうな掠れた声だった。弱弱しい声に凛とはいと返せばゆっくりと息を吸い込む音が聞こえる。呼吸なんて必要ない存在なのに、やっぱり、彼女は人間らしい。
「境鳥さまはお美しいです、とても」
「……お前は優しいですね、とても」
「いいえ、私は本当のことしか言えぬ口しか持ち合わせておりません」
それからまたリンドウは静寂を作ったが、その静寂は先ほどのようにむず痒いものではなく、暖かく、そして優しい時間だった。それでも私はその静寂に心を乱されて、大きく腕を振って赤を舞い上がらせた。