メランナが境鳥に聞きたいこと
「ねえ、境鳥さま。わたし、ずっと聞きたかったことがあるんです」

私の腰掛ける祠の横に座り、いつもひきずっている斧を置いて、メランナは顔を上げることもなく私に問いかけた。普段から持ち歩くそれを握りしめていないことで手持ち無沙汰なのが落ち着かないのかぷちぷちと草を抜いてゆくメランナに小さな命を摘むなと批難の視線をやれば、つい、と笑いながら自らの首元に指を滑らせた。

「わたし、自分でも分かるくらいに駄目なやつです。今みたいに自然を愛する気持ちもないし、有り余った力を振り回すことしか出来なくて、あの時、境鳥さまがわたしを助けてくれたとき、正直もう諦めてたんです。売られて、好きにされて、死ぬんだなって」

じっとこちらを見つめるメランナの瞳は曇っていて少しだけ返答に詰まる。そんな私を知ってか知らずか、私から視線を外して空を仰いだメランナはさらに続ける。

「わたしね、弱いひとが泣く世の中って当たり前だと思うんです、だから……ううん、そう思って諦めようとしたんです。それでもこうしてまだ境鳥さまのお傍にいるのは生きることを諦められなかったからです」
「ちゃんと言わねば何が聞きたいのかわたくしには分かりませんよ、メランナ」
「……どうして、わたしを助けてくれたんですか」

震える唇に、行き場の分からない手に、泣きそうなのにそれに気付かないまま引き締めた顔。そのどれもが、あの時を思い出させる。

「わたくしも同じだからでしょうか」

小さく溢れた困惑の声を聞こえなかったふりをして、先ほどのメランナのように空を仰ぐ。木々に遮られた空はまるで切り取られたようで、隙間から降り注ぐ光が心地いい。

今は祠の上で眺める景色も、昔は土の上で、血の味を噛み締めながら、睨みつけるだけだった。
生まれたばかりの頃、何もかもが上手くいかなかった私が選んだ道は、この手で全てを壊してしまうというものだった。妖怪も、人間も、神も、自然も、全てが憎らしくて、積み重なる屍の上、届くことのない太陽や月に向かって何度も何度も吼えた。自分のものか相手のものか分からないくらいに赤に塗れて、汚くて、苦しくて、逃げたくて、さらに塗り重ねた。そうして全ての頂点に君臨したとき、血で染まった私に残ったものは何もなくて、隣には誰もいなくて、虚しく独りでその手を見下ろすだけだった。

「ひとりというのは、お前が思うよりずっと恐ろしく、寂しいものなのですよ」

この森が、私の出した答えだった。一人にならない場所。誰もが手を取って生きる場所。もちろん綺麗なことだけじゃない。欲望のために手を取り合うことだってある。それでも一人じゃないことこそ、私が導いた、暖かさだった。

「境鳥さまは、ひとりだったんですか?」
「さあ、どうでしょう」
「そう、ですか」

煮え切らない表情のメランナを一瞥して、袖から覗く自分の手を見つめる。そう、メランナは知らなくていい。一人の哀しさも。私の手が導いた結末も。この暖かい箱庭の奥に、多くの冷たいものが眠っていることも。




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