初めまして、と声をかけると酷く怯えた表情で、胸元で握り締められた手は震えていた。そんな表情されても、そんな風に恐れられても、あなたの死は変わらないのに、と、どこか冷めた目で見る自分を抑え込んで、自分の名を名乗る。その名にそぐわぬ笑みと仕草で、片足を引き、揺れるスカートの裾を少しだけ掴んで、頭を下げて。そうして柔かにするりと手を取って、よろしくと言い放つ。完璧だった。完璧なはずだった。それでも彼女は恐怖の表情を崩さないままで、震えた声で少し苛立った。もはや意地になっていた。悪魔と関わってしまったいたいけな少女を救い出すという目的はいつしか消え去って、ただ手にかけるというものに変わっていた。それなのにいつのまにか絆されて、いつのまにかそばにいることが当たり前になって、いつのまにか暖かいと思うようになっていた。彼女の笑顔が冷めきったわたしに光を注いで、固まりきった汚い心を優しくどろどろに溶かして、あの日のことを心の奥にしまい込んだ。彼女と笑いあうだけで、今までに積み上げられた全てが崩され、美しくなった感覚すらあった。彼女となら、種族も世界も年月も全て超えて、幸せになれると、本気でそう思った。いつか、いつの日にかそれを伝えて、受け止めてほしいと、そして彼女の悲しみも全てわたしが還してあげたいと本気で思っていた。そのくらい、大好きな、友達だった。
荒廃した地はいつからか草花で溢れ、毎日ここに訪れては泣き腫らしていたひとたちはもういない。手向けられていた花は姿を消し、この地で惨憺たる争いが起こったことを、人伝でなく自分の記憶として知っている人間はもういないだろう。彼女がいなくなってから、人間にとってとても長く、私にとってとても短く、それでも地獄のように苦しい時間が流れた。まだ会えない、まだ見つけられない。あんなにも愛したのに、あんなにも笑いあったのに。今日も彼女が眠りについたこの場所で、私の創り出した花を風に乗せて彼女を思う。幸せならそれでいい。けど、それでも、幸せな姿をちゃんとこの目で確かめたい。私は、それだけで満足なのよ。少しさみしいけど、顔も知らぬ誰かが彼女を心から愛し、彼女がその誰かを愛する姿を想像すると胸が痛いけれど、それでも、私は彼女が幸せならその背中を押せる、気がする。私のことを覚えていてほしいけど、忘れたのなら知らないままでいてほしい。私のことを友達だとまた言ってくれるのならそれ以上のことはないけれど、私の顔すら分からないのならなんの関係も持ちたくない。相反する思いがぐるぐると巡って、結局正しい道は見いだせないままだけど、きっとこの答えは今出すものじゃない。彼女がちゃんとこの世界にいて、誰かと笑い合っていたら、そのときに迫られるものだと思う。分かっていても迷ってしまうのは、彼女が、唯一の友達だから、だろうか。
私は信じている、風に舞う花がいつか彼女の元へ届くことを。優しいひとが、あの光が、今もどこかで笑っていることを。