20151213
なんとなくそういう気分になって、今思えば本当に不可解なことだけれども、いつもなら部屋に篭って画面と睨み合っているであろう時間を減らしてまで少しだけ外へ出た。誰もいない中庭で、誰もいないベンチに腰掛けて脚を組む。空を見上げて息を吐いても目の前は白く濁らない。ユオは美しい景観と同じように、とても澄んでいる。ひやりとした風が頬を撫で、私の髪を揺らす。顔にかかる赤を手で振り払い、再び吐息を風に乗せる。やはり澄んだ風には白が重なることはなかった。
カールも三つ編みも解いてしまえば鬱陶しいことこのうえないのに、切ることができない。私を形作る、私の美しさを引き立てる、艶のある、長く、柔らかい武器。私は上に立たなくてはならない。誰よりも賢く、誰よりも強かに。頭脳も、力も、美貌も、私の持ちうる全てを使って。そうでなければ意味がない。ここで、こうして生きている意味がない。
考えれば考えるほど不快になる。どうして私たちが奴隷のように泥水を啜り、あのような自己の利益のみを追求する者が笑うのか。ぎり、と歯を食いしばり、不愉快な気分をそこら辺にいる奴にぶつけてやろうと立ち上がろうとしたとき、後頭部に柔らかい衝撃が走った。

「格好くらいどうにかしてから来いよ、見てるこっちが寒くなんだろ」
「見なければいいじゃない、お前はどうしようもない阿呆ね」

投げつけられたマフラーを投げ返せばイッサが苛立ったようにもう一度こちらに押し付ける。自分の思い通りにいかないと苛立つところは、本当に私とそっくりだと、我ながら思う。これ以上イッサの気分を害しても後で作戦通りに動いてくれなくなるだけなのは分かっているけど、思った通りになるのはなんだか癪に触る。淡く灯る対抗心に身を任せて巻かずにかけるだけに留めた。イッサは呆れたようなため息をひとつ零して、私の隣に腰掛ける。

「隣に座ることを許可していないわ」
「うるせえ、そんなに嫌なら最初からここに従順な犬でも座らせとけ」
「私の飼ってる犬たちは褒美をねだって騒がしいったらないの」
「だろうな」

くだらない会話だろうと、殺伐としていようと、私たちはいつだってこうして隣にいた。笑って、泣いて、喧嘩して、罵倒しあって、殴りあって、それでも私たちは二人で一緒だった。私たちの世界はお互いが創り出すものだけしかなかった。手を繋いで、言葉でお互いを確かめ合って、こうしてここまで、ずっと、ずっと。そうしていつしか血の繋がりのない私たちに芽生えたのは、友情じゃなく、恋情じゃなく、愛だった。家族として、温もりを与え、温もりを受ける。
今ではもう触れたり、言葉にしたりはしないけれど、こうして隣にいれば分かる。私の生きる意味は、こいつだけだと。そして同じように彼の存在する理由は私なのだと。

「そのマフラーいい色だろ」

ぽつりと呟かれたような言葉にぼんやりと「そうね」と返すと、視界の端でイッサが得意げに笑ったのが見えた。

「色も、手触りも、デザインもこだわったんだ。そのせいで世界に一つの代物になったけどな」
「ふうん、特注ってわけね。お前にしてはよく頭が回ったわ」
「うるせえ」

イッサは乱暴に立ち上がると踵を返した。その様を見て、昔の自分を思い出す。昔は私が前にいた。いつも、どんなことがあっても、絶対的な壁だった。それがいつのまにかこうしてイッサの大きくなった背中を見つめている。寂しいとか、嬉しいとか、そんなことは一切ないけれど、イッサと部隊は違えど同じ地位に立って、なんとなく、不思議というか、言葉で言い表せない感情が湧き上がる。

「ああ、言い忘れてた」

再び私の前にくると、イッサは跪く。いつもの血を求める下品な目ではなく、慈愛で満ちた瞳が私を映す。それだけで言いたいことはわかった。理由なんてもちろん、家族だから。

「生まれてきてくれてありがとう、アナイス」
「愛してくれてありがとう、マティユ」




ALICE+