バティストくん練習
何日もかけてようやく腹のなかに全てを収めたベルトラン様がそっと立ち上がる。用命かと顔を向けるも、そろそろ変化があってもいいね、とぽつりとこぼしただけで、何を命じるでもなく部屋から出て行ってしまった。部屋までお送りしようと思ったが、ああいう、自分の理想とする世界を思い浮かべるベルトラン様に付き纏うと、明日の晩にでもこの皿に乗ることになる。ついと皿の縁を撫でれば赤黒い血が白い手袋を汚す。あの二人も黙って、ひたすらに行動することで媚びていればよかったのだ。下手に彼の深淵を覗こうとするからこうなる。愚かな女の末路とはどのような形であれ醜い。それでもそんな女たちがある程度役に立っていたことは事実で、明日から屋敷の仕事をどう回そうかと考えながら、音を立てないように皿を下げてゆく。ああ、そうだ、皿を片付けるついでにアフターディナーティーを何にするか考えなければいけない。生きている頃も面倒な小娘二人だったが死ねば死ぬで迷惑なやつらだ。皿を片付けて、紅茶を用意して、それから、と考えを巡らせてみたが、先ほど言っていた変化とやらが気になってしまって、少し動きが鈍ってしまう。あの二人を生かしたことも殺したことも変化と言わなかった彼が、あえてその言葉を使った理由は何か。あえてそれをここで呟いた思惑は何か。幼い頃から楽しさだけを求めてきた彼が望む変化、それはきっと良くも悪くも様々なものを大きく揺るがす、誰もが驚きに声をあげるものだろう。自然と唇が弧を描いて、笑いが喉からするすると紡がれる。やっぱり正解だった。彼の下で働くことも、彼に自分の全てを委ねたことも。首輪代わりに結ばれた黒いリボンを締め直して、そっと口元を隠す。そうして手を離したときにはいつもの、変化がないからつまらないと言われた顔に戻る。ああ、でも彼に影を命じられたときのために笑えるようにしとかなければいけないか。彼のように敵などいないと言わんばかりの笑みを浮かべて、食堂の扉を閉める。さあ、紅茶を淹れなければ。




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