お互いの好きなところを言わないと出られない部屋
「あんたたちのいいところ?好きなところ?尊敬できるところ?馬鹿みたい、あるわけないだろ」
「無理すぎ」
「考えることすら苦痛ですね」

答え方は三者三様でも答えは同じだった。ミルダはこのままではもう一生と出られないのではないかとぼんやりと思うばかりだ。ことの発端は分からない。この部屋がどうやって機能しているのかも知らない。そもそもお互いを褒めることで本当に出られる確証すらない。もし彼らに職権を乱用して無理矢理にお互いの好きなところを引き出せたとして、この大きくそびえる扉が開かなかったら、その先は考えるだけで背筋が凍りつく。ここを出る前にこの世から魂を追い出されるだろう。

「で、でもヒントは互いを褒めあうということしかないであります」
「はあ?じゃあなに?愚図で鈍間で頭の回転遅くて敵前逃亡を繰り返すような駒としても人間としても使えないヘタレな戦闘部隊で最年少のキューティクルのない銀髪をお持ちの少佐サマを褒め称えろっていうの?それならまだ自分で自分を褒めていた方がましだね」
「俺は部屋から出るためとか以前にそもそもここにいる人間を褒める言葉が欠片も見つかんない。うける。っていうかなんでもいいからヤクないの?すっげーイライラしてきた」
「麗しい女性でしたらいくらでも浮かぶのですが……今回ばかりはお力になれませんし、なる気がしません、すみません」

もう駄目だ、終わった、ここまで統率のとれないことが未だかつて一度ですらあっただろうか。こんな絶望的な状況、聞いたことも見たことも体験したこともない。それでも自分が一番上の立場で、この三人をまとめなければいけない。ぎゅっと拳を作り、言葉をひり出す。

「ええと、ベルトラン殿は、とても頭がよくて顔立ちも美しいであります。ジル殿は手術の腕は恐るべし、といったところで、バルレは周りの人間に気を配る優しさがあるであります」
「……開かないけど」
「え、や、あ、あの、互いに、なので皆にも言ってもらわないといけないでありますよ」
「だから褒める言葉が見つかんないって言ってんじゃん。俺の言ってることの意味わかる?ないの、褒めるところが、一個も。ほんと戦闘部隊はどいつもこいつも使えないな」

ふん、と鼻で笑ったジルに反応したのはバルレだった。眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、髪をかきあげて見下したような笑みを作る。雲行きが怪しくなってきたが、なんとなく、月子とマリアの喧嘩を思い出して口を噤んでしまう。あの二人のおかげで学んだのだ、ここで不用意に口を出せば、全てが自分に降りかかる、と。

「あなたの班もたいがいですけどね。薬にのめり込む馬鹿と愛らしいとはいえ菓子を作ってばかりいる上司。戦闘部隊を貶すならまずは自身の部隊について見直してみては?」
「は?アントナ先輩のこと馬鹿にしてんの?」
「あんたも馬鹿にされてるけど」
「いえいえ、情報部隊も自身の部隊について見直しべきだと思いますよ。暗い部屋に引きこもってずっと画面と睨みあいばかりでは体力が衰えそうですねえ」
「……いいよ、その挑発受けてあげる。引きこもりの情報部隊に負ける戦闘部隊なんて面白いし」

ベルトランがすらりとレイピアを構えたのを見たバルレとジルがそれぞれの獲物を構え出したところで、ミルダは部屋の隅に移動した。はたしていつになったらここから出られるのか。今頃、チョコレートがないと騒いでいるであろう月子を思い浮かべつつ、目の前の惨劇を見ないようにそっと目を閉じた。




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