レオンで「大人の定義」
大人って言うのは多分エカテリーナのように、自分の願いを抑え込んで誰かの願いを叶えるように祈ることだと思う。けれど僕たちは、彼女の願いを叶えるという、僕たち自身の願いを叶えたがっているだけだ。姿形が変わることのない僕たちはいつまでも子供のように、ただひたすらに、君の幸せを願ってる。
イリスで「箝口令」
私たちには秘密にしていることがたくさんある。エカテリーナのこと、本当は人間じゃないこと、そしてなによりここでサーカスをする理由。たくさんの秘密を、銀河を溶かしたような夜空に隠して、華やかな舞台に立つ。多くの歓声と拍手が私たちを包むけど、本当に欲しいものは遠く、私の手では掴めない。
エメリンで「四十五秒以内の逢瀬」
たまにエカテリーナが広場に来ることがある。皇女が自ら街へ出向くことで人々を活気付けるためとか、そういう理由で。その時はサーカスのことを悟られないように、テントを畳んでひっそりと過ごすけれど、ほんの少しだけ物陰から人混みを見つめる。そのたった四十五秒が、私には、永遠のように感じる。
エメリナで「なんて身勝手な願い」
私たちが、心を持たないただの人形だった頃から、エカテリーナはずっと自由になりたいと願っていた。外に出て、自分の目で世界を見たいと祈っていた。私たちが隣にいるのに、私たちには目もくれないで、ずっと外の世界だけを望んでいた。身勝手なお願いだと思うのに、やっぱり否定も拒否もしきれない。
モニカで「空腹に効くクスリってありますか」
私たちの身体は人間と違って空虚で、何かを感じたり、何かを求めたりすることはない。それなのに、魂を与えられたあの日から満たされないほどの渇きを感じて仕方がない。人間は病にかかると薬を飲むけど、私たちにそんなものは効いたりしない。私のこの渇きを癒やすものはなんなのか、分からないまま。
エカテリーナで「自分だけ知ってればいい」
少し前、自由になりたがっていた私のために、私のお人形たちが悲しんで、苦しんで、傷付いてまで、私の願いを叶えようとしてくれたことがあった。街のみんなはもういつも通りの生活に戻ったけれど、だからって許されることじゃない。それでも彼らの、そして私の罪は、私が、私だけが知っていればいい。
ベルトランで「大人になって、それからどうするの」
死にたくないと喚く少女がたぐり寄せた生への道、僕との押し問答。まだ生きていたい、どうして、長生きしたいの、なんで、お母さんに孝行したいの。へえ、お母さんってこれのことかな。薬指に指輪がはめられた腕を落として笑う。「大人になって、それからどうするの」だって孝行する相手、いないのに。
ジルで「君とならできる」
生意気というか身の程知らずというか、とにかく腹が立つ。共闘する余裕もないのか。過去に拘るやつに碌なやつはいない。いつの日か導き出した持論は案外正しかったのかもしれない。君とならできる気がしたんだけどね。まあ終わったら殺すつもりだったんだけど。袖に仕込んでいた針を放り投げた。残念。
バルレで「それは寒い夜だった。」
頬を撫でる風も、足元をゆっくりと包んでゆく雪も、冷たくて、痛くて、全てがこれは現実なんだと思い知らせる。届かなかった、間に合わなかった、あんなにも、大切に抱きとめていたのに、するりと攫われてしまった。何もかもを投げ出したあのとき、確かなことがあったとするなら、それは寒い夜だった。
バティストで「言えない一言」
眉間に皺を寄せる主人の張り詰めた糸に触れてしまわないように言葉を選びながら報告を続ける。なんとなく、もう、彼の思う通りにはいかないだろうと思う。それでもなお、彼が望み、作り、描くことをやめなければ、この空想に塗れた彼の世界は終わらない。彼が諦める瞬間まで、別れの一言は必要ない。
花千代で「愛されるのに臆病すぎて、」
抱き締められたときも、刺繍のされた二つと無い美しいマフラーを与えられた時も、優しい声で名を呼ばれたときも、控えめに頭を撫でられたときもつい一線を引いてしまう。数え切れないほどの時間は、自分を弱くするばかりだった。愛しているのに、愛されたいのに、素直になるには、あまりに臆病すぎて。
ベアトリーチェで「愛せるなら愛してみろ」
ようやく同じ世界に立てたのが嬉しくて。やっと同じ世界を見られることが嬉しくて。早く伝えたくて駆け足で飛び込んだ教会には、ぼろぼろの机や椅子と、軋んだ床と、そして美しいステンドグラスしか残っていなかった。愛せるなら愛してみろ。そう嘲笑った悪魔の、楽しそうな顔と声が、頭から離れない。