四十宮学園最大の催し物である学園祭が終わったあと、今年はダンスパーティーが開かれるということで、下らないと言いながらも生徒会長として半ば強制的に参加しなければならない千歳が、パートナーとして選んだのは、必然というべきかふみだった。そこら辺の女の子の相手は面倒くさい、杏とは正直そこまで気が合うわけではないから面倒くさい。消去法で選ばれたふみはもちろん不服そうにしていたが、いざ会場に来ると期待や楽しみたい気持ちが強まったようで、大きな花や豪華なシャンデリアなどに次々と視線を移し、心なしかそわそわとしながら千歳の到着を待っていた。ふわりと裾が広がったドレスは星屑をまぶしたようにきらきらと輝き、緩く巻かれた髪からは甘い香りが優しく漂う。自分が自分でないような、まるで童話のお姫様になったような、そんな感覚にふみは浮き足立っていた。
この日のためにダンスパーティーでのマナーも、綺麗な歩き方も、ワルツのステップも、全部頭の中にしっかり叩きこんだ。
それでもいざその場に立たされると、何もかもが違うことを、ふみはその瞬間になってようやく実感した。
「緊張しなくていいよ。失敗したってどうせ君なんだから失望なんてされないだろう?」
「せ、正論だけど失礼ですよそれ……全然フォローになってないし……」
千歳は言い淀むふみの手をぐっと引き寄せて、顔を近づけて笑った。握られた手の温もりが、かすかに香る千歳の匂いが、金糸の奥に薄く揺れる赤が、全てが時間と空間を切り取ったように焼き付いて、ふみは不思議と目を逸らせずにいた。初めて出会った時のような感覚のような、初めて知る感覚のような、
「僕以外を見なければいい、僕だけを見ていればいいんだ」
「能星、せんぱい」
「僕もふみだけを見てるから。大丈夫、二人だけの世界だよ」
その言葉に、絡んだ糸のように強張っていた身体が解け、改めて差し出された手に、なめらかな動作で自分の手を重ねていた。うるさいくらいに音楽が鳴り響いているはずなのに聞こえない。他の参加者のステップの音も耳に届かない。ふみに感じ取れるのは千歳の息づかいと、自分のヒールが鳴らす鋭い音色と、触れ合う手の暖かさだけだった。照明の淡い光がなんの変哲もない床を星空に変える。千歳に腕を強く惹かれるたびに広がるドレスが星空に光のカーテンをかける。足を踏まないように、失敗してしまわないように、不安に揺れていたふみの瞳は幸せそうに細められていた。夜空が用意したような煌びやかな世界で、ただ二人きりで踊っているようだった。二人の小さな笑い声だけが、反響する。
「能星先輩、楽しいですね」
「そうだね、たまにはこういうのも……いや、なんでもないよ」
少し寂しげに途切れた不自然な言葉を無粋に追うことはせず、ふみはただ、手を離してしまわないように力を込めた。千歳もそれに応えるように、何も言わずにふみを力強くリードする。終わりがくることを知っていても、二人は知らない顔で踊り続けた。