長男と末っ子
綱から足を滑らせ、無様にネットに掬われる。頭と精神に順応しない体に苛立ちながら、靴を放り投げてネットから降りると、ふ、と嘲笑うささやかな声が聞こえた。声がしたほうへと目線をやると、淡いピンクのピンヒールを拾い上げたレオンがいつもの腹立たしい笑顔でこちらを見ていた。

「なによ」
「別になにも。イライラしてるなって思っただけだよ」

わざとらしく舌を出して笑うレオンに対して、爆発しそうなほどに怒りが湧き上がる。あなたが私を連れ出さなければよかったのよ。あなたがこんなことを強いらなければ私はただ愛らしく微笑むだけの、誰にでも等しく愛でられる存在でいられたのよ。それを、その世界を壊したのはあなたなのに。持っていた傘を振り上げ、軽い笑みを顔に貼り付けるクラウンに投げつける。先端が鋭利な傘は一直線の彼の眉間へと飛んで行く。

「やめてよ、そうやってヒステリー起すの」

何ともないようにあっさり受け止められた傘が床に叩きつけられる。それでも笑顔を崩さないレオンと、睨み続ける私。本当はちゃんと理解している。私の力で彼には勝てないことも、彼に逆らって、自分の信じた道を自分一人で進んだところでエカテリーナを救えないことも、彼にとってこのやりとりはほんの冗談にすぎないことも。

「あなたと話すと疲れる」
「そう?僕はすごく楽しいよ。まさの末っ子とのコミュニケーションって感じがして」

精一杯の強がりもあっさりと躱されて、私のプライドはずたずたに引き裂かれて、再び彼の言うヒステリーを起こしそうだった。けれどもう一度同じように彼に向かっていったところで、またきっと私の心を抉る言葉が飛ぶだけだろう。ぐっと堪えてレオンの元へと歩み寄り、靴と傘を奪うように取り返して、最後の置き土産にと、十センチほど上にある彼の顔を強く睨みつける。

「それなに?上目遣いってやつ?」

やはりただ笑うだけの彼に手のひらを握りしめる。

「嫌いよ、あなたなんて」
「あはは、奇遇だね、僕も嫌い」

本当、分かり合えやしない。




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