お伽噺のように結ばれたい
「ころして」
「もう君に、醜い姿を見せたくない」
「ふみ、お願い、僕を助けて」

悲痛な声を聞きたくなかったから、本当につらそうに顔を歪めるから、私は、こうすることを選んだ。自分で、この手で、この結末を運ぶことを願った。私がどれだけ力を込めても、血こそ出ることはなかったけれど、この刀は確かに能星先輩に、苦痛を与えていた。間違いなく、私が彼を殺した。それでも、今までにないくらい優しい顔をして、嬉しそうに、ありがとう、なんて微笑む彼に何も言えず、倒れてゆくさまをただ呆然と見つめていた。

「のうじょう、せんぱい」

震える唇で名前を紡いでも、もう、何も返してくれない。びゅう、と冷たい夜風が容赦なく私を襲う。冷えきった指先から、神和住先輩の刀が手から滑り落ちる。鋭い音を立ててコンクリートに叩きつけられたそれは、スラブに横たわる前に砂のように消えていった。それを見てやっと、確かな答えを導き出すことができた。この世界の平和と引き換えにして、誰も帰ってこないことを。すとんと胸の奥に落ちてきた事実に力が抜けて膝が折れる。月明かり
が嫌に明るくて、全てを照らすから、目を塞ぎたくなる。ねえ先輩、どうしてそんなに優しい顔をしているの。

「ずるいよ、先輩。わたし、まだ……」

次の言葉をに詰まる。いま、この気持ちをここで言ってしまったとして、もう二度と会えない能星先輩に抱いた気持ちを吐き出したとして、 ずっと、これからずっと、かかえて生きていけるのだろうか。一生告げられない気持ちを、募っていく想いを、叶わない望みを、胸に残して。短く息を吸う。躊躇したけれど、わたしは。

「こんなに、好きなのに」

静かな夜なのに、邪魔をする雑音なんてないのに、私の声は星屑をまぶした黒いカーテンがかき抱いて消し去ってしまった。私の想いを受け止めてくれるひとはもういないし、私の想いを責めてくれるひともここにはいない。私はこれから、 自分自身の言葉で自覚したこの想いを背負って生きていく。ガラスの靴なんてない恋物語を、ドレスも着ずに、ひとりで。




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