「リンドウ!境鳥さまが呼んでたよ!」
「そう」
いつもと変わらない凛とした表情はいつまでたっても変わることがない。境鳥さまの前ではたまにちょっぴり微笑んでいたりもするけど、私に対してはいつだってそっけない。私の横をすっと通り抜けて境鳥さまの祠へ向かおうとするリンドウを追うように、体をくるりとひっくり返して、隣に並んで歩く。
「どうしてついてくるのかしら」
「なんとなく!」
「……そう」
それっきり会話らしい会話はなかったけれど、リンドウの横はどうしてか凄く心地がいい。二人で並んでいるのにだんまりなんて、きっと他の人相手じゃ嫌になっちゃうのに、その相手がリンドウってだけでこんなにも胸が弾む。でもやっぱり、せっかく近くにいるのにずっとこのまま歩いていくだけなんて寂しいから、リンドウの少し低くてかすれた声が聞きたくなるから、いつもこの静かな時間を自分から壊しちゃう。
「あのね、この間、この森に人間がいたのよ」
「ふうん」
「私とおんなじ髪の色でね、よく見てみたら目の色まで一緒だったの」
「そう」
「凄いよね。人間にもいるんだよ、銀髪って」
「そうね」
リンドウが騒がしいものは苦手なのは分かっているけど、こうやってどうだっていい話にもちゃんと相槌を打ってくれるから、嬉しくて、だめね、どうしても我慢ができなくなる。リンドウを前にすると、どうしてもわがままになる。一緒にいたくて、お話したくて、どうでもいいことを積み重ねてみたくなる。こんな気持ちは初めてで、いつもよりずっとずっと不器用になっちゃう。
「境鳥さまのご用事、なんだろうね」
「さあね」
「いいことだといいね、例えば、うーん、おいしいものが見つかったとか!」
「そんなわけないでしょう」
いつだって返事は短いし、つんと突き放すような物言いはするし、赤い目は誰に対してもすごく冷たいけれど、私、本当は知ってるのよ。リンドウ私と歩くときは、私に合わせてほんの少しだけ歩幅を狭めて歩いてくれていること。だからいつかリンドウも、私がリンドウといるときはいつもよりも大きめの一歩を踏み出していることを知ってくれたら嬉しい、なんて。