夢にまで見たその一瞬は、彼女が負の輪廻から外れるその一秒は、儚くもあっさりと砕け散った。力なくすり抜ける手を、重力などに任せてたまるか、地面などにくれてやるかと、強く握りしめてみても、魂のない彼女の体は世界の理に逆らうことはない。また、彼女を救えなかった。つい先日に彼女の薬指に与えた銀がいやに輝いて見える。そのかすかな光ですら、私をささやかに責め立てているようで、直視し続けることは出来なかった。何度愛を囁いても、何度抱きしめても、何度体を重ねても、彼女はそれを否定するかのように一瞬でいなくなる。初めはあまりの虚しさと不甲斐なさに疼く胸をかきむしって、溢れ出す感情と涙を必死に押さえつけていたものだったが、何百と繰り返した今はもう、涙すら浮かぶことはなかった。もしもああしていたのなら、あの時こうすればよかった、懺悔に似た言い訳を繰り返しながら膝を折り、そっと手を離した。マリオネットのようにぴんと上に引っ張られていた彼女の身体が地面に横たわる。あの優しい笑顔も、私の仕草や言葉に赤くなる頬も、柔らかく笑う唇も、彼女だけが持ち得る甘い香りも、ここにはもう、どれひとつとしてありはしない。それを悲しむ私は確かに、ここに眠る彼女に恋をしていた。そして、次の世でもまた、私に屈託無く笑いかける彼女に恋をするだろう。その次があるのならその次の彼女に、その次の次があるのならその次の次の彼女に恋をする。何回も、何百回も、何億回繰り返したとしても、それは変わらない。それでも私は彼女と、今ここに眠る彼女と幸せになりたかった。もう一度あの時のように結ばれたかった。もう次などなければよかったと、心の底から思っている。それなのに涙は一向に溢れる気配を見せやしない。次があると知っているからか、それともある程度の諦めは覚えたからか、どちらにせよあまりに薄情で、冷酷だ。
「すき、だった」
再び彼女の手をとって、指を絡めて、自分の頬に寄せる。呟いた言葉が乾いた空気の中に溶けて消えたように、彼女の指先にはもう熱は残っていなかった。もういっそいつまでも燻るこの恋心も、薄れてしまえばいいとぼんやり思う。そうすれば薄情だろうが冷酷だろうが、誰も、自分自身すら、私を責めることはないだろう。とはいえ、私が彼女に一切の興味を示さなくなるその時が来るとして、何千年後にもちゃんと地球が存在しているのかも知らないけれど。溜息を吐いて立ち上がり、ポケットに入っていた風船を膨らませて花を作る。せめてもの、手向けになりますように。