「きっと、これで最後になる。終わりだ、全て」
叫び散らすような普段と違った凛とした声が、けして狭くない空間にゆっくりと溶けた。戦闘狂と称され、敵味方問わず恐れられてきた上司の青い目は、長い戦いの終わりを悲しむでもなく、最後の戦いを喜ぶでもなく、濁っているように見えた。いや、上司だけじゃない。きっと、ここにいる人間はみんなそうだろう。我輩は、私は、そうなることを分かっていた気がする。他人の命を踏み潰し、世界の全てを握ろうとする戦いの果てに見えるのは虚無だけだと。そこには達成感も罪悪感もなく、美しい世界も、正義も、友情も愛情も優しさも何もない。知っていながら、全て理解していながらここに立ったのだ。その虚無を大切な人たちが望むなら、私をミルダと呼んでくれた人たちがそのちっぽけな世界を欲しがるのなら、それが理由だ。それでいい。それでよかったはずなのに、どうして、もう敵前逃亡なんてしないって覚悟を決めて、絶対に勝利をこの手にするって、それなのにどうして、こんなにも身体が震えるのだろう。
懐かしい声が私の名前を呼んでいる気がする。知らない声のはずなのに、まるで酸素が肺を満たすように、当たり前のように、すっと胸の奥の方まで染み渡って、離れてくれない。こんなの、知らない。こんなに懐かしくて、こんなに泣きたくなるのに、誰の声だか分からない。それなのにこの声が頭の中に響くたび、足に蔦が絡まったように、戦場へ向かうための一歩が踏み出せなくなる。
「ミルダ様、よかったですね。敵前逃亡するまでもない世界が待っていますよ」
「……そうでありますね」
バルレの目に映る自分はいつも通りの、頼りなくて、泣き虫で、臆病な自分だった。バルレもバルレで変わらず、紫色の綺麗な瞳と、人当たりのいい笑顔を浮かべていて、それを見ていたら、なぜか少しだけ安心した。今までは全てを見透かしてしまいそうなその目も、本性を隠すその笑顔も、苦手だとすら思っていたのに、なぜか、そう、やっぱり、懐かしく思えて。今までずっとそれらを見てきたような、あの声を聞いてきたような、そんな気がする。いつかまた、ちゃんとここへ帰って来れたら分かるだろうか。私の奥底に潜む、この優しい思い出の正体を。
「必ず終わらせるでありますよ、バルレ」
「御意のままに」
絡みつく甘い声を、頭をゆるく振って弾き飛ばした。きっと分かる、きっと会える、根拠はないけれど、今ならそう思える。しっかりと地面を踏みしめ、大嫌いだった勲章たちを胸に携え、戦火の光が溢れる場所を見据えた。自分に言い聞かせるように何度も大丈夫だと心の中で呟いて、歩き出す。きっと大丈夫、全てうまくいく。