フィクションはきみに起きる
ぼんやり、と教師の話を聞いていた。
悲痛な面持ちで口を開いた担任曰く、昨日、なんの前触れもなく、クラスメイトである竹林りおが突然失踪したのだという。学校には多数の記者が訪れていたし、実際クラスどころか学校中がその話題で持ちきりだった。
拉致?家出?―神隠し?そのワードが持ち上がったとき、ふと思い返したのは少し離れた町の噂だった。同じ年頃の女の子が突然姿を消し、そしてある日突然戻ってきた、という噂だ。又聞き程度の知識だし、自分のことと直接関係がなかったから軽く聞いていたのだ。そして重たいため息をついた。今回ばかりは、そうも言ってられない。りおは、彼の友達だったのだ。
昨日も軽口を叩いて別れた。また明日、いつも通りの言葉を告げた彼の“また明日”は訪れなかった。信じたくない気持ちと、戸惑う気持ちが交錯して、彼は頭を抑えた。―痛い。頭痛に伴い、笑うりおが、遠ざかっていくのを感じた。
ひっきりなしに放送されていたワイドショーから、少しずつ彼の名前が消えていった。世間から、りおという存在が少しずつ隠れていき、たたりを起こす神隠しにあった少女、の話題にすり変わったとき、彼は友の存在を完全に諦めた。理由はともあれ、失踪した人間が生きている可能性は限りなくゼロに近い。
月日の経過とともに、風化されようとしていた。
だから、見間違いかと思ったのだ。
少し髪は伸びたろうが、特別痩せこけているわけでもなし、むしろ健康そのものな風貌のりおが平然と町中を歩いていたから。
「りお、!」
声に出して呼ぶことのなくなったその名を大声で呼んで、その手をつかむ。振り返る瞳も視線も以前と変わらぬ彼そのもので、ひどく泣きたくなった。
「おまえ、今までどこに!」
「おっ、あっくん久しぶりー。……んん〜、あ、これが王気?ってやつ?」
「は?」
「えーっと、何すればいいんだっけ」
―その方が律王であられるのなら誓約を、律麒。
「お、そうだった。でもここじゃ人目もあるし、ちょっと離れよう」
聞きたいことは山ほどあったが、何分、以前と変わらぬ態度に呆気にとられたし、笑った彼がまた目の前にいることが信じられなかったから、されるがままにしかならなかった。情けないことに、泣いていたし。
「なんだよあっくん、俺に会えてそんなに嬉しかったの〜?」
「ちがっ、おまえ、ほんと今までどこ行って、」
「ごめん、あっくん。これからあっくんも向こうに行かなきゃいけないんだよな」
「何言ってんだよ、」
「俺さ人間じゃなくて麒麟なんだって〜。それでたぶんあっくんは王様みたい」
目の前の男はどう見てもあの首が長いキリンには思えなくて、しかも自分が王などと尚更信じられなくて、ただ呆気にとられるしかなかった。
「りお、」
「ごめんな。……えーと、天命を持って主上におむかえします。御前を離れず、詔命に背かず、忠誠を誓うと制約します……」
そう言って、彼は、彼の足元に額をつけた。一拍置いて何やってんだ、そう止めるはずの手は眩い光に遮られ、彼は思わずたじろぐ。
「あっくん、ゆるすって言ってみて」
「え!?ちょ、ほんとなんなんだよ、りお、おまえ」
「いいからゆるすー」
「ゆ、ゆるす…?」
瞬時、身を揺さぶられるほどの稲妻が身体中をかけめぐった。しばらくその余韻で動けずにいると、りおはからりと笑い、伸びをした。
「さあ行こう。面白いとこに連れてってあげるよ」
その日、その界隈一体に大きな嵐が訪れた。奇しくも1人の行方不明者を出しただけで、多数の重軽傷者はいたものの、死亡者はでなかった。
1週間空けて、担任の口から、もう1人のクラスメイトの不在を告げられるが、悲しみはあったものの取り立てて以前のような騒ぎにはならなかったのは、理由が知れていたからだろう。
「主上!!台輔は一体今度はどちらへ行かれたのか!!」
「え、えーと、ごめん、おれは知らない」
「主上がしっかりなさらないから、台輔がいつまで経ってもふらふらされてしまわれるのですよ!?」
「ご、ごめん…よく言っとくから…」
「あっくんまた怒られてた?」
「誰のせいだ、誰の!!あ、胃が…」
「若いのに大変だな」
「誰のせいだ!」