ハッピーエンドがはじまった
突然意識が浮上した。
1歩、今までとは違う感覚で大地を踏みしめ、なぜか瞳から涙が溢れ落ちた。これを、ある種の誕生だと悟った。視線を感じて振り返れば、優しく見守る女怪がいて、彼女はやっぱり、涙した。
獣の姿から次第に人の形に慣れ、数年すぎたのち、南の法国に麒麟旗が挙げられた。麒麟旗は、麒麟が王を選定する時期に入ると挙げられる。我こそは王たるや、と思う大勢の国民が昇山するのであった。―しかし。はじめの昇山者の中に、彼女は王気を見いだせなかった。王気は麒麟である彼女にしか分からない。もとより目に見えるものではなく、覇気のようなものであるのだと漠然と思っていたが、遂には生国である法に降り立ったもののその中でも王気を持つものはいなかった。
愕然、とする。法国は王をなくして久しい。現に、今降り立った法国の荒廃は目に見えて酷いものだった。北国とはちがい寒さで死ぬことはないが、妖魔が跋扈し、作物は実らず、災害がおこる。それは1重に、民へと送られる。―もしこのまま、王を見つけられなかったら?自身を抱きしめふるえる彼女を、優しい白い手が撫でた。
「―蓬莱へ」
ぽつり、と呟いた。
彼女は知っていた。こちらではない、虚海の先、東の果てにあるという幻の国。
普通行き来することができないが、たまに交わり、蝕と呼ばれる災害が起きて、こちらからは卵果が、あちらからは海客と呼ばれる人が流される。―仙でなければ、虚海は超えられない。つまり、人ならざる彼女は―麒麟は虚海をこえ、あちらへ渡ることができた。
法国に王はいない。なら王は、王である卵巣は蝕で流され、あちらにいる。
――…鳳麟。行かれるのですね。
「きっと王はあっちにいる。―はやく、王を選ばないと…法にはもう時間がない」
泣きそうな表情を引き締め、彼女は蓬莱への道を開いた。月影が映し出された海面は、ほのかに金色の光を帯びていた。
「見つけた―」
いくら胎殻をかぶり、蓬莱に馴染んでいようが、その王気たるや、見間違うわけがなかった。1歩その気配に近づけば、突然意識が浮上したあの日と同じように、涙が溢れ落ちた。
この日を、いくら心待ちにしていただろう。この人に仕えることが、この命の幸福であるのは明白だった。
「天命をもって主上におむかえいたします」
つま先に額づけば、暖かい空気とともに、痺れるような甘い感覚が脳内を駆け巡る。
「これよりのち、御前を離れず、詔命にそむかず、忠誠を誓うと申し上げます」
何度も繰り返し、練習を重ねた。上手に言えるだろうか、困ったように首を傾げる女怪と、その光景を微笑ましく見守る女仙に何度も問題点はないか聞いて回った。
荒廃したあの大地は、きっとこの暖かい空気が優しく包み込んでくれる。どの民も、安心して暮らせる国にしてみせる。
「ゆるす、って、言ってください」
夢にまで見ていた主の瞳の中の己を見て、彼女は、3度目の誕生を果たしたのだった。