ロビンフッド

トリオン供給器官の破損を告げるアナウンスが、無機質に響いた。
気を抜きすぎた、と思うより先にオペレーションルームに強制送還される。
背中から落ちる感覚は久しぶりだ。
隊員の中で落とされる確率が高いのはいつも司だが、シオが戻ってきて、平坂の姪とかいう騒がしい女子高生が増えて、その機会は格段に減少していた。
「くそ、可愛くない」
オペレーターが人間なら使う言葉に気を遣うが、ちょうど良いことに辻崎隊のオペレーターは人工知能である。
隊長の口が悪かろうが、舌打ちを打とうが関係がない。
「サイリィ、モニター三面つけろ」
『了解しました』
ひとつにマップ全体図を、ひとつに自分を撃ち抜いた狙撃手を映す。
「狙撃が出来るなんて聞いてないぞ」
『過去のデータにもありません』
「俺達の学習戦で使うより、ランク戦で使ったほうがいいだろ。何考えてるんだあいつ」
『ランク戦のデータは私に反映されますが、私の学習戦で得たデータはボーダー本部のデータベースに反映されることはありません。皆様が公言されない限りには情報は秘匿され、ランク戦でも有効打となりえるでしょう』
「そんなことは分かってる」
司の《俯瞰視》は常に周囲が見えているわけではない。
集中しなければ精度は落ちるし、知覚できる範囲も狭まる。
逆に静かに集中できる戦況なら、バッグワームを装備していようがしていまいが、司には関係がない。
レーダーで捉えられない敵影を確実に発見できるのが司の《俯瞰視》だった。
その、司の知覚していた範囲の外側から、狙撃手であっても撃つのを躊躇うほどの遠距離から、的確にトリオン供給器官をブチ抜いて来たのが、神峰律だった。
「それは可愛くなさすぎるだろう」
『射撃精度に対するデータが不足しています。現時点では、まぐれということも考えられるでしょう』
「そうだったらいいけどな」
ジャンクボックスからヘッドセットをひっぱり出して、司はモニター前に着席する。
サイリィの成長のために行っている学習戦は、ランク戦と異なるレギュレーションでとり行うこともあったが、今回はランク戦と同ルールに設定してある。
隊長に限っては、ベイルアウト後も指示出しを行っていいことになっていた。
「平坂、お前ちゃんと神峰落として来いよ」
私怨半分、冗談半分で語りかけると、辻崎隊のエースは大仰にため息をついた。