春風のような彼女

辻崎司には「好きだ」と懲りることなく言い続けてくる同級生がいる。
今年の春でそんな関係も三周年になった。まったくもって有難くない。
彼女は挨拶のように好きだと言ってくるだけで、司から「好きだ」と返したことはないし、付き合ってすらいなければ、この関係をなんと呼ぶのかも司は知らなかった。
「本部にいるなんて珍しいじゃん、シオちゃん?あ、辻崎くん好きだよ」
また挨拶ついでに常套句を吐くので、司は眉根を寄せて彼女の方を一瞥する。
「……流れるように言うな。もうその言葉には慣れた。いい加減やめろ」
言われ始めた頃の、赤面して狼狽えていた自分がうらめしかった。
毎日、毎日、顔を見るたびに言われれば慣れもする。
「キミにだけ言いたいんだからいいじゃん」
良いわけがない。
「よく言うな」
「冷たいね」
司はため息をついて、もう一度彼女の方を見た。
楽しそうな表情には嘘偽りはなく、だからこそこの応酬をどう捉えるべきか司は悩む。
「どれだけ言っても俺はお前を好きにならないぞ」
「別に好きにならなくていいよ。私が辻崎司くんを好きって事実があれば満足だから」
「…………。」
本当になんなんだ、こいつ。
司はぼやきたいのを堪え、不満を言葉にするのはやめた
この困惑とつきあうのも今年で三周年になった。嬉しくもめでたくもなかった。
三年変わりなかった微妙な距離感が、四周年を迎える前にどうにかなる可能性はなさそうである。
そもそも、この関係をどうすべきなのかも、辻崎司には分からなかった。