42 -謝罪の言葉-
積み上げられた思い出は、
壊れても壊れても
残ってしまうものなんだ…――
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(side:丸井)
もうすぐ…テニス部はバラバラになる。
一体何がどうなっちまってるって言うのか。
『丸井先輩は…いつでも元気を与えてくれる先輩、だった…』
「…クッ…」
俺は力一杯右手を握り締めるしか無かった。
分かんねぇよ…もう。
俺は、誰を信じれば良いんだよ…?
『でも…丸井先輩のことを信頼して、大好きだったのは…私だけ、だったんですね…』
――いや、本当は分かってた。
きっと初めから、分かってたのに…。
『丸井先輩!今日はティラミス作ってみました!』
『うわっ、負けた!丸井先輩のケーキは女子顔負けですよ…』
『次はチーズケーキ作ってきてくださいね!』
一度でもアイツを疑ってしまった。
もう戻れる道なんて無かった。
間違ってるって分かってても、突き進むしかなかったんだ…。
「何言ったって、嘘にしか聞こえねぇんだよ」
「
…ッ!」
やめろ…
「お前は、嘘吐きなんだよ!」
やめろよ…
「ふざけんなよ、お前…。牧原に謝れ」
「…この…ッ!」
何でなんだよ、俺…ッ…――!
もう…拭い切れねぇ。
元には、戻れねぇんだ…。
『丸井先輩!大好きですよ!…――』
彩愛…
お前がホントに悪い奴だったら、良かったのにな…。
『あっ…』
「!白井…なんで此処に…」
『ちょっと、2年の教室に用があって…』
コイツも、不思議な奴だった。
途中から入ってきたくせに、簡単に馴染んで。
そんでもって、俺達よりも部のことを思ってた気がする…。
「お前には…感謝してるぜ」
あの時俺の暴走を止めてくれたのは、本当に…感謝してる。
彩愛を殴ってたら…きっと、もっと…後悔することになってた。
『ど、どうしたんですか?急に…』
「…いや、何となく。お前の顔見たら言いたくなった」
『は…はあ…』
なんで俺は、こんな奴なのか…。
仲間も信用出来ねぇ俺が…テニス部に要る意味なんてねぇ。
っつっても、テニス部は廃部だったっけか。
「彩愛…」
アイツの顔が頭から離れねぇ…。
だけどもうどうすることも出来ねぇんだ…考えたって、辛いだけ…なのに…。
『丸井先輩…今からでも間に合いますよ』
「え…?」
『誠心誠意、彩愛ちゃんに謝ってください!そしたら彩愛ちゃんも、きっと許してくれます!その後は先輩次第です』
「あやま、る…?」
そんなこと言ったって、謝罪の言葉すら出てこねぇんだ…。
謝って許されるとか、そんな簡単なことじゃねぇ…。
「ダメだ…もう…」
『何言ってるんですか!謝らないよりも、謝った方が良いに決まってるじゃないですか!言葉にしないと、彩愛ちゃんには伝わりませんよ!丸井先輩は許して貰う為に、そんな悪びれた顔をしてるんですか!?』
「…ッ、違う…。ホントに…申し訳ないと思ってんだ…言葉に出来ないほど…」
『なら!そう言うしかないじゃないですか!彩愛ちゃんは超能力なんて使えないんで、黙って丸井先輩の気持ちを理解するなんて出来ませんよ!』
白井は俺の腕を思いっきり叩いた。
『
ホラ!丸井先輩らしくないですよ!』
「………フッ」
コイツを見てると、なんか悩んでウジウジしてる自分が馬鹿らしくなってくんな。
元気を貰える、っつーか。
とにかく、進まねぇと始まらないってことだよな!
「ありがとな!柄にもなく落ち込んじまったぜぃ☆」
『きっと彩愛ちゃんも、そんな丸井先輩が大好きだったんですよ!』
「ハハッ、お前ちょっと…彩愛に似てんな」
『だって私、彩愛ちゃんに憧れてましたから!』
憧れね…彩愛に言ったら調子に乗りそうだな。
『彩愛ちゃんだけじゃない、私…ずっとテニス部に憧れてたんです』
「テニス部に?いや、お前それ外側からの意見だぜぃ…」
『外側?』
「入ってみてわかんだろぃ?腹黒の部長に、鉄仮面の副部長、あとは詐欺師に、神経質なジェントルマン、目見えてるか分かんねぇ参謀に、ただのハゲと、ワカメと…」
『…フフッ、入って分かりましたよ。やっぱりテニス部は、
最高のテニス部でした』
「………」
ハゲと、ワカメと……彩愛。
みんな揃って、それでこそ…最高のテニス部なんだな…。
「俺も、同感だぜぃ☆」
立海のアイドルらしい俺のウィンクを白井にプレゼントして、俺は走った。
とにかく彩愛に会いたい。
会って、直接謝りたい…。
『トロフィーが壊されて…私だって平気でいられるハズないじゃないですか…』
あの時お前は壊れたトロフィーを大事そうに、抱き締めた。
手が切れて血が滲んでも、強く強く抱き締めてた。
お前だって、テニス部の一員だから…
みんなとの思い出壊されて、平気なワケねぇよな。
んなこと出来る奴なんて…一人しか居ねぇ。
分かってた、けど…俺は真実から目を反らした。
大切なことから逃げようとした。
そんな俺に、謝るチャンスをくれ…――
「
彩愛…ッ!!」