村 精市
『アメ、ちょっと良いかな?』
「私、急用出来る予定なんで」
『
もうちょっとマシな言い訳考えようよ』
My brother,My sister.
(幸村精市の場合)
幸村に肩をがっしり掴まれているせいか、それとも彼が放つオーラが金縛りのように私の体の自由を奪っているせいかそれは分からないけど…彼の顔を見れない。
いや、見れないと言うよりも"見たくない"と、私の頭がそう訴えている。
それでも幸村の表情を分かってしまう自分が恐ろしくて仕方ない。
彼は今笑っているけれど…
心の中は憎しみで一杯。
きっとそんな感じだ。
『アメ、話を聞くときは人の目を見て話そうね?』
「
ごめんなさい、もうしませんからァアア」
『大丈夫、君の事じゃないから』
「…え?」
そう言われて安心したのか、私の目はきちんと幸村の方に向いていた。
なんだ…やれば出来んじゃん、私。
『いや、でも…君にも原因はあるかな?あるような気がするね。
寧ろ君が原因だよね』
要するに私が悪いんですね。
もうわかったから!ごめんなさい!
だからその黒いオーラを収納してください!
「そ、それで…私が何をしたの?」
『君の妹なんだけどね、
"お姉ちゃんを結婚させよう作戦"って言うのを計画してるらしくて』
「へ〜………っえ!?」
『昨日妹の部屋でコレを見つけてね』
幸村は一枚の紙を出す。
そしてそれを私に手渡した。
「…"幸村精市☆天壌アメ 結婚させよう計画!"……、何さコレ」
『題名だけでどんな内容か分かっちゃうよね。フフッ、
自分の妹ながら頭の悪い奴だ』
「ちょ、ちょっと待って!もしかして…私の妹と幸村の妹が…」
『そう、こんな馬鹿馬鹿しい計画を立ててるらしい』
幸村は呆れた顔で溜め息をひとつ。
こんな計画を立てる妹も妹だけど、勝手に妹の部屋に入ってそれを見つける兄も兄だな。
てゆうか寧ろ妹ちゃんがドンマイ過ぎて同情するよ。
「私達…付き合って何ヶ月でしたっけ?」
『そうだな…0.5ヶ月くらいかな』
「まだ一ヶ月も経ってないんじゃん。結婚なんて早すぎでしょ」
私は持っていた紙を幸村に渡す。
幸村とは最近付き合いだしたばっかりで、結婚なんて問題外。
ただ幸村の妹と私の妹が親友だったらしく(最近知った)、兄と姉が付き合った事に舞い上がってこんな計画を立ててしまったのだろう。
私の妹って、そんなに単純だっただろうか。
『アメ』
「何?」
『自分の妹だけでなく人様の家の妹にまで馬鹿を感染させるのはやめてくれないか?』
「
私はウイルスか」
『言っておくけど、俺の妹は…とことんやるよ?』
そう言った幸村の顔がマジだったので、取り敢えず冷や汗。
幸村大魔王様よりも怖い者があるだろうかと思ったのは内緒にしておくけど。
「あれ、コレは何だろう?」
私の鞄の中に見慣れない物体が入っていた。
『――…!』
「何?どうしたの、幸村?」
『早速仕掛けてきたね…』
「は?」
――ガシャン!
幸村は私が持っていた物体を奪い取り、投げ捨てた。
ってお前!それ大事な物だったらどうするんだよ!
『やられたよ、盗聴器だ』
「………え…
ぇぇええええ!?」
『多分俺の妹が作ったんだろう』
「ちょ、
貴方の妹神ですかぁ!」
『盗聴器の作り方、調べてたみたいだしね。まぁ…データは全て削除しといたけど』
この時、フフッと笑う幸村に悪寒を感じたのは言うまでもない。
あぁ…もう妹ちゃんが可哀想過ぎて盗聴器作って仕掛けちゃったのも許しちゃう。
『これで分かっただろう?俺の妹は天才なんだ』
「こうなったら"結婚するよ"って言っちゃえば?」
『アメ、馬鹿?そんなことしたら契約書書かされて婚姻届を区役所に提出されちゃうよ?』
「婚姻届って…私達まだ未成年だけど」
『俺達が結婚可能年齢に達した瞬間ゴールインって言うのは強制だろうね』
「その間に私達が別れたとしても?」
『勿論。アメは俺と一生縁が切れないんだよ?それで良いなら、言っても良いけどね?』
「
…考えさせてクダサイ」
もし仮に、本当に仮に、私が幸村精市くんと別れたとして。
それでも幸村と縁が切れないって…どうよ?
それってまさに
生き地獄。
別れただけでも気まずいと言うのに、強制的に引き戻されてゴールインって…
幸せになれる確立0.000001%(柳風に言ってみました)。
そしてその時に私に好きな人もしくは彼氏が居たとしたら本当に最悪のゴールじゃないか。
そんなゴール嫌だ、
結婚怖い、幸村家怖い。
…っと、危ない。今結婚恐怖症になる所だった(幸村家恐怖症は既に決然)。
「決めました、やめましょう」
『随分長い脳内会議だったね』
「じゃあさ、どうすれば良いの?私達」
『選択肢は三つ。一つ目はこのまま耐える。二つ目は妹達を諦めさせる。三つ目は…
どちらかが死ぬ』
「…う〜ん………
ウン?」
ちょいと、お兄さん。
今わけのわからない単語が聞こえてきましたが?
"死ぬ"とか何とか。
…
死ぬとか何とかとか死ぬとか何とか死ぬとかとかとか。
『アメ、落ち着いて』
「
…っは!どうしよう、私恐怖で動揺してるよ」
『フフッ、大丈夫だよ。策は練ってあるから』
「ホント!?」
『うん。だから、俺に任せて?』
幸村はそう言って微笑む。
あぁ…君が私の彼氏で良かったよ。
普段かなり虐められたり、罵られたり、嘲笑われたりしてるけど……
ん?
アレ?幸村って実はS?
え、私って幸村の彼女だったっけ?
幸村って私の彼氏?あ、違う、彼女?
アレ?私って幸村の彼氏?彼女?
幸村って…え?誰だっけ?魔王?
魔王って『
アメ、頭がミキサーにかけられてるよ?』
「
…うはっ!…ヤバイ。私もう何も考えないでおく」
『うん、そうして。それで、今俺が喋ってた事聞こえてた?』
「…え?頭がミキサー?」
『
うん、その前だね』
「俺に任せろ…?」
『…その後。うん、分かってるよ。聞いて無かったんだよね?』
「…ゴメンなさい」
『いいよ、慣れてるし。今日俺の家に来てって言ったんだよ』
…俺の家に来て?
と、いうことは…身を捧げる覚悟をしなさい、って事?
ちょ、ちょ、ちょ…私まだ心の準備が…!
『あ、いらない妄想はいらないよ。熟してない果物を食べることはしないから』
「…そっか。
って、熟してたら食べるのかよ」
『それじゃ、今日部活終わるまで待ってて』
ツッコミ無視ですか。
良いけどさ、いつもの事だし。
でも少しは私を女として見てくれないと、他の男の物に……
なれないや。
後が怖い、一生呪われる。
まぁ…今の私は幸村以外考えられないんだけど、ね――。
…――
『お待たせ、アメ』
「あ、幸村。お疲れ〜」
『さ。今頃二人で会議してる所だろうから、行こうか?』
「はいよっ」
会議とか、十年早いんだから。
そうゆう事はサラリーマンに任せておけば良いんだよ。
-幸村家-
「幸む『
しっ!』
廊下でいきなり立ち止まる幸村に話しかけようとしたら口を塞がれた。
手とか口とかじゃない。腕でだ。
エルボー形式で女の子の口を塞ぐ彼って何なんですか?
男、と言う前に人間ですか?
『絶対してるって!』
突然少し離れたドアの向こうから声が聞こえてきた。
聞き間違える事はない。
この声は、私の妹の声。
『してない、絶対にしてない』
そして聞こえてくるもうひとつの声は、恐らく幸村の妹の声。
どうやら何かをしてるかしてないかで言い争っているようだ。
『男は野獣なんだって!お姉ちゃんもきっと食われてるよ!』
「
…ぶっ『
静かに』
ちょっと、アンタ!
いつの間にそんな言葉を知ったのよ!?
『いやいや、お兄ちゃんは常に慎重だもん。一ヶ月も経たないのに手なんか出さないって』
『じゃあ…チューくらいはしてるよ!』
『ミゾレのお姉さん、リップとか付けてる?』
『え…?ん〜、時々しか付けないよ』
『なら絶対してない。キスするようになったら、そうゆうのって意識する筈だし』
『あ…確かに。…って事は、まだAもBもまだって事!?』
『ってことだよね。あーあ、何やってんだろ…あの二人』
『これじゃ結婚とか、ほど遠いね〜』
ドアの向こうで繰り広げられる会話に耳を傾ける私達は、唖然。
この子達、本当に私よりも年下なのだろうか。
――ガチャッ!
そう思っていると、幸村が部屋に突入。
おいおい、入るんなら言ってくれよ!
心の準備ってものがあるだろう!
『お、お兄ちゃん!』
『二人とも、それくらいにしたらどう?』
「そ、そうです。普通の子供に戻ってください…!」
『俺達がAとかBとかCをするタイミングなんて、俺達で決めるから』
「そうそう……
って、君も何を言い出して…!」
『だから、何もしないで見守っててよ?』
『……お兄ちゃん…』
幸村は私の肩に手を乗せ…たと思ったらいきなり私を自分の方に引き寄せた。
そして私の頬に手を当て、唇を押しつけた。
キスをしている、と分かるのにそう時間はかからなかった。
恥ずかしいと言う次元を越えて私は気絶しそうで。
『お…お兄ちゃん』
『お姉ちゃん…
やってくれるよね』
妹達はただただ唖然としていて、その後一言も話さなかった。
ミゾレと一緒に幸村家をお邪魔したその直後。
幸村から一通のメールが届いた。
その内容は…
"実は妹達、俺達に何もない事が不満だったらしいんだ。
今日生キスを見せたし、しばらくは何もないだろうから安心して。"
…なんだよソレ!
知ってたんなら言ってよ!
前々から幸村家が恐ろしいとは思ってたけど、今回の事で身に染みたよ。
一人心の中でそう呟く私であった。
幸村精市の場合
(兄妹揃って変でした)
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