05(獅子王side)

―獅子王side―

今日は主の機嫌が悪い。いや、今日「も」だな。
前任がいなくなってから皆笑わなくなった。
仲間も次々にいなくなっていった。最初は粟田口の短刀達。それを皮切りに、短刀を始め次々にあの女に折られた。しかも質の悪いことに、自身の手は汚さず、重傷の奴を無理矢理出陣させたり、同じ刀派の仲間に折らせたり、、、、。
それを見てケラケラ笑っているあの女に殺意を覚えた。しかし、ここで手を出してしまったら、言霊で操り人形になるのがオチだ。

ズキリと傷が痛んで思わず腹部を押さえた。

この前の出陣で出来た傷だ。でも俺はまだ軽い方だ。一番ひどいのは短刀達だ。なんとかしてやりたい、、、でも自分にはどうにもできない。
そんな想いを抱いていた頃、見習いが来た。

「、、、誰だ?」
『ああ、私は見習いだ。政府から通達が来ている筈なんだが、、、』
「み、ならい、、、?」

玄関に気配がしたので出てみると、変わった格好をした若い女が立っていて、自分を見習いだと名乗った。主以外の女は久しぶりだった。
何故ならあの女が主になってから、この本丸から出ていない。唯一他の本丸との交流の場である、演練にはお気に入りのレア太刀しか連れていかないからだ。
いやそれよりも、見習いと言うことはあの女の下に付くと言うこと、、、ただならない不安を覚えた。
そして、ふと彼女の背後にいる人影に目をやった。そこには、まさかの三日月宗近の姿があった。しかも、その三日月は見習いの刀だという。
見習いがどんな経緯で三日月を手に入れたのかは謎だが、ますますあの女に会わせるわけにはいかなかった。
なぜなら、あの女が喉から手が出るほど欲しがっているのが、正しくこの三日月宗近だからだ。

、、、気が付くと俺は見習いの肩を掴み外に追い出そうとしていた。すると、彼女が困惑しながら俺の腕を優しく掴んだ。手袋越しだがほんのりと感じる体温、と同時に身体中が暖かくなってきて、傷の痛みが薄れていくのをぼんやり感じた。そんな俺の顔を覗き込み、彼女は真っ直ぐに俺の目を見た。吸い込まれるような綺麗な蒼とかち合う。

『落ち着いてくれ。お前がそこまでして私を追い出したいのか解らんが、、、こっちも帰るわけにも行かなくてな。一先ず主に会わせてくれないか?』

ダメだ。あの女に会ったが最後、三日月を奪われた挙げ句、命まで奪われてしまう。なんとか追い返す理由を考えるがなかなか言葉が出てこない。悔しくて悲しくて、情けないことにじわりと涙が込み上げてきた。そんな俺を見て、よほど会わせたくない気持ちが伝わったのか、困った顔で三日月を見た。すると、三日月がなにやら彼女に耳打ちした。するとハッとした顔になり、懐から丁寧に折り畳まれた紙を広げ差し出してきた。

『ああ、そうか!少年、これを主に見せてくれ』

紙を見てみると、『厳令書』と書かれている。以前、前任が見習いを渋っていた時に、一回だけ来たことがあり見たことがあった。

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――――――――

「これ貰っちゃうと従わなくちゃいけないんだよなぁ、、、」
「そうなのか?」
「うん、、、あまり体調も良くないし、折角見習いに来てくれた子に迷惑かけちゃうかもしれないから断ってたのに、、、はあ、、、」
「主、、、」
「まあ、来ちゃったなら仕方ないよな。こんのすけにそう伝えておくよ」
「無理しないでくれよ?」
「はははは。ありがとな、獅子王」

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――――――

昔の事を思い出しながらその紙を受けとる。
前任はその後、見習いに殺された。
そう、あの女に。
この紙さえ来なければ、前任はまだこの本丸の主でいられたかもしれない。
俺にとっては憎悪しか沸かない紙切れだが、無下にすればどうなるか。あの女は勿論の事、俺達も刀解され本丸は取り壊しとなる。あの女がどうなろうが知ったこっちゃないが、前任や仲間達との思い出が詰まったこの本丸だけは無くしたくなかった。
俺はこくりと頷くとあの女の元に向かった。


あの女に紙を見せながら事情を軽く説明すると、案の定顔をしかめやがった。
えーやら、めんどくさいなどぶつくさ言っていて埒があかなかったので、気は進まなかったが三日月宗近の話をしたとたん、目を輝かせ、ひとつ返事で承諾した。

(横取る気満々だな、ありゃあ、、、見習い、ごめんな、、、)

三日月に会いたいと早く早くと急かす奴に背を向けると見習いの元に向かった。


玄関に戻り、見習いを上がらせ謁見の間に案内する。その時、ようやく自分の体の変化に気付いた。
傷が全て無くなっている。痛みも無い。
あれ?いつの間に、、、と首を捻ってふと見習いを盗み見ると、彼女と三日月の周りだけほんのり明るかった。しかも、それに自分も影響されているのか、呼吸も楽になり、憑き物が落ちたかのように体が軽かった。

(まさか、、、な。いやでも、思い返して見ると、、、この見習いは一体何者なんだ?)

俺はその見習いに不思議な感覚をいだいた。
そして、ついに謁見の間に付いてしまった。

中に声を掛け襖を開けると、見習いは俺に軽く礼を言い、中に入っていった。そして、あの女の前に正座し丁寧に挨拶した。三日月は少し遅れて彼女の背後に座り、同じく頭を下げた。

とても美しい光景だった。
周りの刀剣達も見入る程に。
俺も暫く見とれていると、あの女がその空気をぶち壊し始めた。
見習いに対し、仕事をしっかりやれとか言ってたが、自分なんて仕事のしの字もしないくせに、、、。イライラしたが、見習いはあくまで低姿勢を貫き応対する。とその時、あの女が三日月に気付いた。

気持ち悪いくらいの猫撫声で、三日月にすり寄る
奴に、見習いと三日月が呆気に取られた。
そして、愛刀だった筈の一期一振を邪険にし、自分の元に連れていこうとしていた。
その時、俺は聞いてしまった。三日月がふと無表情になり、小声で「五月蝿いな」と言ったのを。

迷惑さを隠そうともしない三日月を助けようとしたのか、制止する見習いを口汚く罵倒する奴に、今まであまり表情を出さなかった彼女の眉間が僅かに寄った、、、当たり前の反応だ。人によっては口論、最悪手が出るだろう。
今回の見習いはよほど我慢強いらしい。

そうこうしている内に三日月がある提案をした。
あの女がする三つの要求を見習いが全て叶えれば見習いの元に帰り、見習いがひとつでも叶えられない場合は、あの女の物になる、と。
しかもさらりとあの女をバカにするあたり、見習いを罵倒した事に腹を立ててるのがほんのり分かった。

(は?何考えてんだ!?あのじいさんは!そんな交換条件出しちまったら、、、)
『はい、勿論お受けします』
(って、受けんのかよ!!)

見習いは意外にアッサリ承諾した。周りの刀剣達も心配そうな目を向けていたが、当の本人は勝算がるのか動揺している気配もない。それどころか提案した三日月も奴の背後でのほほんと見習いに笑い掛けている。

、、、なんなんだ、この展開は、、、

多分ここにいる全員が思っているだろう事は火を見るより明らかだ。
しかしこれでハッキリ分かったのは、三日月は見習いに絶大な信頼を向け、主従を越えた想いを抱いている事、そしてあの女には欠片も興味が無い、という事だ。
まあ、あんな醜い本性をさらけ出してちゃ、な。
あれで三日月をモノにしようとしている辺り、すでに頭の中はお花畑状態なんだろう。
俺が呆れながらその光景を見ていると、奴が一つ目の要求をした。

「巴形薙刀を鍛刀しなさい。勿論、一回で、ね」

耳を疑った。薙刀自体かなりレアに入る部類で、中々鍛刀出来ない。ましてや巴形なんて。
しかもピンポイントで、鍛刀するのは不可能に近い。周りもざわめく。
しかし、いくら不可能だとしても諦めたら、三日月は奴に奪われ、最悪見習いは、、、
俺がどうするんだとオロオロしていると、見習いは一呼吸置いて、ハッキリ答えた。

『分かりました。暫し時間を下さい』
「え?」

その言葉に面喰らっている奴に一言、

『では後程、、、』

と言うと、見習いは謁見の間から出ていった。
残された奴は暫く呆気に取られていたが、フンッと鼻で笑うと三日月の腕を掴み、今まで一期が座っていた席に座らせ、自分はその膝に座りすり寄り始めた。そんな奴を迷惑そうに一瞥し目を閉じる三日月。
おい、“主“。いい加減気付け。あんた今、三日月にすっげぇイタイ奴に思われてるぜ、、、?

結構あからさまな三日月の態度に苦笑しながら、俺も謁見の間を出た。そして、彼女の霊力を辿りながら追いかけるように薄暗い廊下を進んだ。


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